抄録
【はじめに】
脳出血後遺症によりADLの低下、コミュニケーション障害にてうつ状態の症例を担当した。他職種との連携、通所リハビリテーション(以下通所リハビリ)の関わりからコミュニケーションに自信が得られ、意欲の向上がみられたのでここに報告する。
【症例紹介】
57歳女性。通所リハビリ開始半年前発症の脳出血右片麻痺(Br.Stage 右上肢II、手指II、下肢III)。重度のうつ状態。運動性失語、自発話みられず、主にジェスチャーやyes―noの手段を要する。退院1週間後より、通所リハビリ、訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)開始。
【経過】
1、評価、問題点の抽出を行った時期
不慣れな環境に対し他者との関わりを避けてほとんど臥床していた。入院時リハビリテーション担当からの情報を得て、評価を行う。筋力低下、耐久力の低下がみられ、ADLは、食事、立ち上がり動作以外介助(FIM29点)を要する。
また、家族、訪問リハビリ担当から症例の性格や自宅内での様子等の情報交換を行いながら症例と関わりをもった。その中でADLの低下や伝わらない事に対してうつ状態になっていることがわかった。
2、安心した関係づくりの時期(7週目)
yes-noをしっかり確認しながら、個別にコミュニケーションを図る。
また、介護職員に症例の性格、不安な気持ち、コミュニケーション能力など心身機能の状態を伝える。
まず主となる介護職員と作業療法士(以下OT)が一緒に排泄場面等のADLにて関わる。困った事、症例が伝えたいことをOTが代弁して介護職員に伝える。その後、介護職員とのコミュニケーションが円滑にとれていくなかで、OTの介入を減らす。
3、他者と関わりをもつ時期(14週目)
介護職員と連携して他利用者に症例のコミュニュケーション能力を伝え、理解を促し、他利用者との円滑な交流を促す。表情が明るくなり、発語がみられる。明るく笑う症例に対して、他利用者から声をかけられるようになった。友人もできて、症例から同じテーブルで過ごしたいとの要望がみられた。
4、自主的に他者との関わりをもつ時期(36週目)
書字やジェスチャーにて他利用者と積極的に交流をもち、利用者主催のお茶会に参加される。伝わらない時には症例自身が職員に援助を求めるようになった。ADLでは、排泄動作が見守りにて可能となる(FIM68点)。
【結果及び考察】
家族、訪問リハビリ等の早期から継続した情報交換により、うつ状態を引き起こす問題点を把握し、支援できたことがコミュニケーションに対しての自信になり、うつ軽減、ADL能力の向上につながった。
症例と介護職の橋渡しの役割、他利用者との交流支援により、他者との関わりが可能になり、本来の症例らしさがでて、社会交流の第一歩となったのではないかと考える。