抄録
【はじめに】
線維筋痛症(以下FMS)とは、原因不明の全身的慢性疼痛疾患であり、全身に激しい痛みが起こる病気である。随伴症状として様々な症状が見られ、現在日本国内でも約200万人以上の患者がいるのではないかと疫学的に発表されている。明確な診断基準がなく、患者の多くは診断されるまでに何箇所も医療機関を周り続けることになる。その間、日常生活動作能力の低下をきたし、FMS患者及び介護者の精神的・肉体的負担が強いられてしまう。今回、線維筋痛症患者の訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)を提供させていただくにあたり身体認識の向上が疼痛コントロールに影響を及ぼしているのではないかと考えアプローチを行った。その結果、日常生活動作能力の向上が見られ、若干の知見を得たのでここに報告する。
【症例紹介】
40歳代。男性。昭和61年7月に交通事故にて頚椎捻挫、左三角筋部分断裂、左肩関節捻挫等受傷。その後、2度にわたり筋接合術、腱板部分接合術などの手術を行う。その後、平成20年2月29日より2回/週の頻度で訪問リハ開始。平成20年11月より若干の疼痛軽減により1回/週の頻度に変更。
【初回評価】
コミュニケーションは可能も短期記憶障害あり。全身疼痛見られ身体に対しての注意不良。また、身体を触れられることに対しての恐怖心から全身の筋緊張亢進。日常生活動作は一部介助~全介助レベル。
【経過】
訓練は閉眼での運動イメージを中心に構築していき、身体に対しての注意を向けていくことから始めた。しかし、全身疼痛の為、注意の持続が困難でまた、日常生活リズムも崩壊しており0~1回/1月程度の介入しか出来なかった。4ヶ月程経過し、服薬内容に変更が見られ若干の精神的安定が見られ始めた頃より1回/月程度身体に対して注意を向けていただけるようになるも、リハビリ後は「きつい」「疲れた」等の声が聞かれた。8ヶ月程経過した頃より、少しずつ自己身体に対しての運動イメージをもてるようになり「事故をして以来初めて腕の動かし方が分かった」と言われる。この頃より、精神的ストレスによる疼痛の日差変動は見られるものの、電動車椅子への移乗介助量の軽減や食卓で家族と共に食事をされるようになる。また、排便コントロールが悪く浣腸や摘便でコントロールを行っていたが、ほぼ毎日トイレに行かれるようになる。
【考察】
FMS発症の背景には身体的外傷や身体的過負荷、心理的ストレスなどが原因となり慢性疼痛に発展していくと考えられている。また、神経因性疼痛であり侵害受容器神経路の脊髄・脳レベルでの中枢性感作・過敏症の成立であるとも考えられている。Perfettiは「痛みは情報性の変質、情報間の不整合性によってもたらされると考えられる」と述べており、今回、誤った自己身体の認識が疼痛に大きく影響を及ぼしているのではないかと考え、アプローチを行った結果日常生活動作能力の向上がみられたのではないかと考える。