抄録
【はじめに】
股関節疾患に対する作業療法は近年、様々な学会等でも発表されるようになり、下肢整形外科疾患に対する作業療法も確立していかなければならない時期を迎えている。
今回、当院作業療法(以下OT)での統一した介入方法を検討する目的で、股関節疾患症例に対しての調査を行った為、若干の考察を加えてここに報告する。
【対象・方法】
平成20年8月~1月中旬までに当院より退院した股関節疾患患者33名(男性5名、女性28名)を対象とした。年齢は66歳~95歳(平均79.5歳±6.5)であった。
対象患者の疾患・術式・OT初期評価・最終評価でのBI・認知機能評価の有無と点数・転帰・在院日数・合併症の有無を調査した。
【結果】
疾患:大腿骨頸部骨折28名、変形性股関節症5名。
術式:THA15名、BHA2名、γネイル11名、CCS 5名。
BI:入院時平均54.5点±17.6、退院時平均73.6点±19.6。
合併症(重複あり):パーキンソン病・症候群5名、脳梗塞3名、精神疾患3名、RA2名、認知症18名(認知症診断あり11名、HDS-R21点以下7名。以下この群を認知症とする)。
認知機能検査:初回のみ実施群10名(認知症5名、非認知症5名)複数回実施群14名(認知症8名、非認知症6名)、未検査群9名(認知症5名、非認知症4名)。
転帰:自宅25名(認知症42.3%)、施設8名。
在宅復帰率:75.8%。在院日数:50.12±18.7日(在宅復帰46.6日、施設60.0日)。在宅復帰者における家屋調査実施率64%。
各疾患でのBIについては、統計学的有意差は認められなかった。
【考察】
転帰では自宅復帰率が75%と、予想より高い結果となった。これは、認知症を合併しておりADLが自立困難な症例でも、家族の協力により在宅生活が支えられている現状を示している。在宅生活へと繋げる上で必要な家屋調査に関しては、60%台の実施率に留まった。実施しなかった理由としては必要性のなかった症例や、前回入院時に実施済みの症例もおり、必要に応じて家屋調査を実施しているという現状である。
当院での認知機能検査の有無は、担当に委ねられている。未検査の群では、失語症やパーキンソン病等の合併症により検査困難な症例や、ADL上問題無いと判断した症例等であった。観察も含めた正確な認知機能評価をOTR間で統一したり、家族や他職種にも認知機能の特徴・対処法が理解し易いパンフレットを作製する等の指導的役割が求められているのではないだろうか。また、家屋調査に基づく住環境のアドバイスを家族だけでなくケアマネ等他職種にも情報提供し、在宅サービスを検討してもらうことも必要である。これらの指導・助言により、家族の協力と理解を得ることができ、入院を長期化せずに早期退院を促進する事に繋がるのではないかと考える。