九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 233
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学習トレーニングへの取り組み
*大倉 あすか
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抄録
【目的】
 今回,当施設では認知症高齢者へのアプローチとして学習トレーニングに注目した.この分野の第1人者である川島隆太先生は「音読や単純計算などの学習は認知発達障害を持つ人たちの前頭葉を活性化し,コミュニケーションの能力や身辺自立の能力改善が期待できる」と述べられている.そこで,認知症高齢者の認知症症状の改善,進行緩和を目的に,学習トレーニングを実施し効果判定を行うことにした.
【対象】
 認知症短期集中リハビリを実施している4名(女性4名).平均年齢84.3歳(83歳~85歳).MMSEは認知症短期集中リハビリの対象である15点以上25点以下であり,平均21.5点(21点~23点)である.
【方法】
 期間は認知症短期集中リハビリの枠組みである週3回,1回20分以上で実施.時間は定時に実施するも,個人により差があり実施時間は20分~40分のばらつきがあった.新規入所から3ヶ月間実施し,平均34回(31回~36回)実施した.内容は川島先生の推奨する学習トレーニング(計算,読み,書き)を実施し,材料は川島先生の著書を使用した.開始時は挨拶や日付確認を行い,実施中も季節の話や今日の出来事などを話し,コミュニケーションを多く取るように心がけた.学習トレーニングによる認知症高齢者の変化を,MMSEと御家族からの聞き取り調査にて調べることにした.本研究は,すべての対象者や御家族へ研究の目的や個人情報の保護について説明を行い,同意を得てから実施した.
【結果】
 MMSEで減点1名(-2点),改善3名(平均+5.3点),変化なし0名だった.御家族からの聞き取り調査を行い,意欲の向上が著明にみられ,興味や関心の拡大等も観られた.
【考察】
 認知面に改善が観られた3名は平均+5.3点と大きく改善が観られた.また,意欲や関心の向上や,悲観的な発言の減少が観られ,介護職より施設内レクリエーションへの参加や,食堂での他入所者との会話も増加したとの意見もあった.御家族への聞き取り調査では「帰宅欲求がなくなり落ち付いて施設の生活を送れるようになった」「家族を気遣う言葉が多く聞かれるようになった」との変化が現れた.他者とのコミュニケーション,感情,ADLの自立,人格などは前頭前野がコントロールしており,学習トレーニングにより前頭前野が活性化され,このような効果を得ることが出来たと考えられる.この結果から,学習トレーニングは目的や意識付けを行いやすく,学力の向上だけではなく前頭前野機能(人間らしさ)の維持・改善に期待できるという川島先生の考えに同意できる.また,今回は短期集中リハビリとして運動療法を並行して実施していたため,身体機能面の向上もみられた.今後は学習トレーニングや運動だけでなく,創作活動なども取り入れて本人の満足度や生きがい,QOLの向上につなげていきたいと思う.
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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