抄録
【はじめに】
ベッドの背上げによる、被介助者への加圧、剪断力の発生は褥創リスクである。リスク管理として、背上げ後に上半身をベッドの接触面から離す背抜きが有効な手段として認識されている。それに対し、下半身に関するリスク回避手段は確立されていない現状にある。今回、背上げ後の下肢の介助挙上を“足抜き”と定義し、その有効性を検討した。
【方法】
被験者は健常成人30名。肢位はベッドの屈曲点と上前腸骨棘を合わせた仰臥位とした。
1:背上げ前(0度)、背上げ後(75度)、背抜き後、足抜き後、背下げ後のポイントで、頭・足部のずれ(距離)と足関節角度、踵部圧力を測定した。ずれは背上げ前を基準とし、ずれ上がりをプラス、ずれ下がりをマイナスとした。角度はゴニオメーターを使用し底屈をプラスとし、圧力は体圧測定器セロ(株式会社ケープ)を使用し測定した。2:被験者に、背上げでずれや圧迫感をどの部位に感じたか、背・足抜きにより快適さを感じるようになったか、アンケートを実施した。統計学的分析はt検定を用い、背上げ後と背・足抜き後で比較した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
1:ずれは、背上げ後で頭部3.2±1.1cm、足部-8.7±1.2cmであった。背・足抜き後で頭部3.5±1.6cm、足部-10.6±1.4cmであった。足部にのみ、背上げ後と背・足抜き後の間に有意差が認められた(p<0.001)。足関節角度は背上げ前32.9±9.7°、背上げ後44.5±9.3°、背抜き後42.1±9.6°、足抜き後32.2±9.0°であり、背上げ後と背・足抜き後の間に有意差が認められた(p<0.001)。踵部圧力は背上げ前48.80±16.83mmHg、背上げ後52.70±19.34 mmHg、背抜き後51.78±18.38 mmHg、足抜き後50.42±16.18 mmHgであり、背上げ後と背・足抜き後の間に有意差は認められなかった。2:背上げによりずれ・圧迫感を感じたのは93%、上半身は圧迫感を、下半身はずれを感じる傾向があった。背・足抜きにより快適さを感じたのは、背抜きが97%に対し、足抜きは60%であった。
【考察】
本研究で、背上げにより足関節はずれ下がりと底屈を強いられていることが分かった。つまり踵部には、背上げによるずれや摩擦により剪断応力を受けていることが推測された。また、背上げ後と背・足抜き後の間には、踵部圧力において有意差は認められなかったが、足部のずれと足関節角度には有意差が認められた。このことは、背・足抜きが背上げによる足部のずれや摩擦を取り除くことができることを示した。しかし、背抜きに比べ足抜きは快適さを感じにくい傾向にあり、被介助者が足抜きの必要性を感じない場合があることも考えられる。また、下肢には布団がかけられていることが多く、介助者も見逃しやすい環境にあると言える。背上げ動作では、背抜き同様足抜きも有効であるということを念頭に置き、ケアに取り入れていく必要がある。