九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 235
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シーティングによる車椅子駆動改善に向けた試み
一症例を通して
*古賀 恵一郎品川 梨絵井手 絵理子白石 美幸清永 陽子森 里美
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抄録
【はじめに】
 当病院・施設のリハビリテーション対象患者の多くは維持期高齢者で、車椅子使用割合が大きく、日常生活上主な移動手段となっている。維持期では身体機能の大幅な改善は困難で、環境改善の必要がある。そこで今回、車椅子駆動が困難な症例に対し、シーティングを検討し実施することで車椅子駆動改善を試みたのでここに報告する。
【症例紹介】
 80代、女性、パーキンソン病(Yahrの分類4)。指示理解は問題なし。座位能力分類では2-座位に問題ありに該当。本人私物の標準型車椅子を使用。自室から食堂までの移動の際に時間の経過に伴う姿勢の崩れが著明で、途中駆動困難となる。
【方法】
 症例の車椅子駆動を困難にしている最大の要因は、過度の体幹前屈・左回旋による上肢の操作性の低下と考え、体幹の動きを制御することによる車椅子駆動改善を目的とした。そこで、体幹の動きを考慮し、幅4.5cmの伸縮性のベルト(以下、ベルト)を用い、以下の3方法にて比較検討した。
1)標準型車椅子のみ
2)両腋窩下よりベルトで体幹と車椅子を固定
3)両肩部に回したベルトを車椅子後面で交差させ、体幹と車椅子を固定
 同一日に、1)から3)の順番で自室から食堂まで(40m・右カーブ2回・左カーブ1回・廊下幅2.5m)を到達目標とし、駆動方法は全て両手駆動にて行った。
【結果】
 1)では、約9mで衝突あり、自己にて修正困難で食堂まで到達不可。駆動中に両肩、腰部に疼痛訴えあり。
 2)では、約16mで衝突あり、自己にて修正困難で食堂まで到達不可。駆動中の疼痛は1)と変化なし。ベルトによる胸部圧迫感の訴えあり。自己にてベルトを外すこと不可。
 3)では、約26mで衝突あるも、自己にて修正可能で食堂まで約11分30秒で到達可能。駆動中の疼痛訴えなし。ベルトによる圧迫感訴えなし。自己にてベルトを外すこと可能。
【考察】
 結果より、1)2)では障害物への衝突及び自己修正困難で食堂まで到達できなかった。理由として、1)は時間の経過に伴う過度の体幹前屈・左回旋による上肢の操作性低下が考えられ、2)においては1)に比べ、駆動中の体幹の前屈は減少されたものの左回旋は抑制できず、上肢の操作性が低下したと考えられる。3)においては、1)2)のような時間の経過に伴う体幹の崩れがなく、終始体幹が起き上がることで肩と車軸が一直線上になり理想的な駆動姿勢に近づけたこと、更に肩甲帯の可動性も生まれ上肢の操作性が向上し、衝突後の修正が可能で食堂まで到達できたと考えられる。
【まとめ】
 今回、シーティングにより車椅子駆動改善を経験した。しかし、衝突回避や駆動速度の改善等の課題が残った。今後更なるシーティングの検討と共にルートや部屋の位置等、環境調整の検討が必要である。
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© 2009 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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