抄録
【はじめに】
 立ち上がり動作の際、大腿広筋群がうまく機能せず立ち上がり動作に不安定さがみられる症例を経験した。上肢での支持がなければ立位保持不安定であり、抗重力肢位における訓練は困難を要した。そこで立ち上がりと起き上がり動作の共通点に着目し起き上がり動作にアプローチした結果、大腿広筋群がうまく機能し、安定した立ち上がり動作の獲得に繋がったので以下に報告する。
【症例紹介】
 77歳男性。当施設デイケア週2回の利用。現在、既往として脳梗塞後遺症(左片麻痺)を持ち6年経過。
【理学療法評価】
 MMT(Rt/Lt)は大腿四頭筋(4/4)、腸腰筋(2/2)、大殿筋(3/3)。BRS上肢V、下肢IV。左右大腿直筋、大腿筋膜張筋の過緊張。左右大腿広筋群の萎縮(+)。
【動作分析及び臨床推論】
 端坐位から立ち上がる際、殿部離床直後重心は足底よりも後方に位置し、それを代償するため上肢を後方に接地。その後、正常であれば重心を上方に持ち上げるために、股・膝関節の協調した伸展が生じるが、本症例では股関節伸展のみが先行し、膝関節軽度屈曲位のままであった。最終肢位である立位においても、膝関節伸展は不十分であった。
 殿部離床後の膝関節伸展が不十分である理由として、正常であれば、大腿広筋群により膝関節を安定させることで股関節と膝関節の協調した伸展が生じる。しかし、本症例は大腿広筋群の機能不全のため、膝関節の安定化を大腿直筋により代償していた。この代償方法では膝関節を軽度屈曲位に保つ必要があるため、股関節伸展のみが先行する立ち上がりになると考えた。結果的に、重心が後方へ偏位した立位姿勢となり立位保持が不安定になっていると考えた。
 次に、on elbowを経由する右への起き上がりをみると、下肢の重みを提供するための大腿と下腿の連結を大腿直筋にて連結していたため、膝関節が屈曲位であった。従って大腿と下腿を連結するための大腿広筋群の機能低下があると考えられ、この点が立ち上がりとの共通の問題点であると考えた。
【理学療法アプローチ】
 on elbowを経由した起き上がり(体幹が屈曲・回旋する際に大腿四頭筋の収縮強調)
【結果】
 起き上がりにおいては、大腿と下腿の連結が得られるようになったため、膝関節の伸展がみられるようになった。立ち上がりにおいても、股関節屈曲に合わせて大腿広筋群の収縮がみられるようになり、大腿と下腿の連結が得られた。その結果、股・膝関節の協調した伸展が得られ、安定した立ち上がり動作の獲得へと繋がった。
【まとめ】
 障害を持つ高齢者の場合、抗重力姿勢での活動に不安定を要する症例が多く、立ち上がり動作の訓練に難渋することも多い。そのような場合、起き上がりと立ち上がりでの共通する問題点を分析し、立ち上がり訓練の一手段として、起き上がり動作にアプローチすることも有効であると考える。