主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士協会九州各県士会
【目的】
近年,腹横筋や多裂筋といった体幹深層筋に着目した脊椎の分節的安定性のためのアプローチが注目されている.しかし体幹深層筋の活動を体表面から評価することは困難である.
MRIは、特に運動後、骨格筋の水分布における変化に敏感で,簡便に,そして,非侵襲的にこれらの変化をとらえることが可能である.このような特徴から,多裂筋の収縮をMRIのT2強調画像によって捉えることが出来るかを検証することを目的とした.
【方法】
対象者は腰痛症などの既往がない7名の健常男性,平均21.5歳(20-22)とした.対象者には研究内容を書面及び口頭にて説明し,同意を得た.多裂筋のトレーニング方法は背臥位で膝90°屈曲位,水銀圧計のカフを第2仙椎にあて,圧を40mmHgにあわせた状態で行った.圧を一定に保ちつつ,一定の速度で膝関節の屈伸運動を20分間実施した.測定前には十分な練習を行い休息後に実施した.
使用装置はGE横河メディカルシステムのMRIを用い,撮影法はSigna HDeであった.撮影条件は1.5T,TR:2000/TE:20であった.撮影したMRI画像より第4,5腰椎横断面での多裂筋の表層部と深層部の信号強度を知るためにROI(Region of Interest)を2箇所設定した.統計処理は対応のあるt検定を用い,有意水準5%未満とした.
【結果】
多裂筋の運動前の表層信号強度は20.5±5.7,運動後は21.2±4.3であり,深層強度信号は運動前16.3±4.1,運動後16.6±5.5であった.トレーニング前後におけるMRI信号強度の有意差は認められなかった.
【考察】
筋を収縮させる際,栄養素を主としてATPが産生され,必要なエネルギーを得,このとき,最終産生物としてCO2とH2Oにまで酸化分解される.この際に産生された筋細胞内のH2Oの量的変化を,MRIT2強調画像における信号強度の変化で捉えることが出来るという報告が存在している.また,MRIの変化は筋活動により起こった筋細胞内外の自由水の移動によるもので,炎症や疲労によるものではないという報告もある.
本研究で用いた多裂筋のトレーニング法は,超音波により筋収縮が確認されており,また手法として特殊な機器や高い技術を使用せず実行できる.
本研究ではMRIによる多裂筋の強度信号の変化を捉えることはできなかった. Fotedarらは運動による水分量と筋活動について,腓腹筋に対して5%,10%,20%の等尺性最大収縮を施行し,20%MVCレベルにおいて筋活動と相関を認めたと報告している.つまり今回用いた多裂筋を収縮させる運動は,20%MVCに満たない低負荷トレーニングであったため,MRI T2強調画像による変化を捉えることが出来なかったと考えた.
今後,抵抗量を調節し,どの程度の負荷でMRI T2強調画像の変化を捉えることが出来るかを検証していきたい.