抄録
【はじめに】
一般的に腰部疾患は疼痛の増悪と緩解を繰り返す人が多い。術部への負担や動作を考慮し、現職復帰を目指す為にも腰痛の再燃を防ぐ事を目的とし、理学療法を行なった。今回腰痛予防、業務動作にて必要と考えられた動作に着目し、獲得に至ったので、ここに報告する。
【症例紹介と理学療法評価】
50歳代男性 職業:食品製造業の運搬 診断名:腰部脊柱管狭窄症 現病歴:他院にて平成21年1月22日椎弓切除術、後方固定術施行後運動療法施行、3月11日当院にて運動療法を開始した。レントゲン所見:第4腰椎第5腰椎の椎弓切除、固定デバイスあり。 軟性コルセット装着中にて体幹前後屈回旋動作禁忌 MMT:下肢4レベル 関節可動域(右/左:°):股関節屈曲 100/100 外旋 25/45 内旋 30/20 筋緊張:大腿部亢進
【臨床指標】
主な職業動作は、体幹前屈位にて一定方向への回旋動作での運搬作業の繰り返しであった。しゃがみ込み動作では骨盤の前傾が低下し、大腿直筋優位、腸腰筋筋出力低下、背部筋群の過緊張、腹部機能の低下が考えられた。この動作では術部への負担が増大し、職業動作改善へは至らないと考えた。したがって、今回しゃがみ込み動作における骨盤の前傾を促す事により、術部へのストレスを分散できると考え、骨盤前傾動作を指標とした。
【考察】
石井は腰部脊柱管狭窄症の原因として、変性を惹起させるストレスが繰り返し加わった結果であると述べている。したがって、日常の姿勢や動作に病態を作り出した原因の多くが隠されていると考えられる。本症例も業務上同じ動作を繰り返す事が一因となり、発症に至ったと考えた。同じ固定術でもその方法によって後療法の期間と方法が異なり一律ではない。軟部組織の修復がある程度の強度に達するまでを3週間、骨の癒合期間は3ヶ月と考えられている。また石井は骨盤から上位の体節の姿勢にはそれを支える下肢、特に股関節の支持力や可動範囲といった運動性が大きく関わっており、荷重位での動作に大きく影響すると述べている。固定された椎体の上下では過度な可動性を要求されるのに対し、股関節の可動性は制限されやすいと考えた。股関節の可動性の向上と骨盤の前後傾運動をスムーズに行なうことで、腰部への負担を最小限に抑え、現職復帰に必要な動作指導へ繋がったと考えた。
【まとめ】
腰痛を繰り返し、手術へ至った原因動作を回避した動作獲得を行なうことで、腰痛の再燃を予防し現職復帰できたと考えた。