九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第31回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 008
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実生活時間に即した活動介入がもたらす効果
*松本 圭可花谷 達也矢野 高正佐藤 浩二桑野 慎一郎
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キーワード: 脳血管障害, する活動, 復職
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抄録

【はじめに】
 知的面と身体機能面は良好だが、今後の生活への不安に起因する自信の低下と早期復職への焦りが強かった症例に対し、退院後の実生活時間に合わせて訓練した。結果、早期退院・復職に繋がった。症例を通し、実生活時間に即した活動の効果について考察する。
【症例紹介】
 50歳代、男性、平成20年8月発症のCVA 左片麻痺。Br.stage上下肢・手指共V。視野狭窄と極軽度の高次脳機能障害を認め、セルフケアは監視から軽介助(B.I:90点)。30年以上調理師として働き、復職への希望は強かった。2年前より喫茶店を立ち上げ調理師兼指導員として昼の定食作り、弁当出荷をしていた。
【チーム目標と作業療法計画】
 目標は通勤を含め安全配慮を獲得しての調理師への復職とした。設定にあたっては、問診にて病前の過ごし方を聴取し、本人と退院後の主要な「する活動」を検討し、セルフケアと復職を挙げた。復職に関しては具体的に通勤、調理という課題を抽出した。訓練は、実生活時間に即してセルフケアは更衣と入浴に介入した。通勤は帰りの時間帯に応じた夜間19:00~19:30の屋外歩行の練習、調理は午後に弁当仕込み、翌午前に弁当作りと定食作りを計画した。実施期間は3週間とした。
【経過】
1)セルフケア自立を目指した取り組み
 本症例の自信低下は、高次脳機能障害の影響よりも視野狭窄による安全配慮不十分な面が影響していた。入浴と更衣の動作練習を実生活場面にて繰り返し指導した。結果、2週間でこれらの動作は自立すると共に、院内歩行も自立した。
2)復職に向けた取り組み
 早期のセルフケア・院内歩行自立により復職への過度な自信を持ち始めた為、実行状況との差を確認しながら、練習するよう努めた。
 2週間で通勤を想定した夜の屋外歩行は、懐中電灯や反射板ヘ゛ルト等の使用で慣れた環境下では周囲への安全配慮が得られた。また調理は、視野狭窄の影響により動作拙劣であったが、繰り返し行う事で限られた時間内で手際よく5品の同時調理や、指導員としての指示出しが可能となった。
 入院3週目以降には2度の試験外泊を実施した。結果、人ごみでの緊張も少なく、退院後の生活に対する自信に繋がった。また、職場の上司に実際の調理場面を見学してもらい情報提供した。そして入院45日目の9月25日に自宅退院した。平成21年4月20日の現在、安全に通勤し発症前と同様の8時間勤務を行っている。
【考察とまとめ】
 本症例に対しては、退院後の生活を見据えた「する活動」を本人との共同作業で具体的課題を抽出し実生活時間に即して実践した事で、具体的な退院後の生活イメーシ゛構築に繋がり早期退院と復職に至った。今回の結果から、身体機能面は良好だが、退院後の生活に漠然とした不安を抱いているような患者に対しては実生活時間に即した働きかけは効果的と考えられた。

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