抄録
【はじめに】
当院は148床の一般病院であり、発達障害に対するリハビリテーション(以下リハ)を開始して4年目を迎えている。今回、外来リハで通院中であった先天性筋ジストロフィー症成人患者に対し、ご家族の希望もあり、当院で胃瘻造設・気管切開を施行し、遠方の専門機関ではなく地域での在宅支援移行に介入する経験をしたのでここに報告する。
【症例紹介】
20代女性。福山型筋ジストロフィー症。ADL全介助。随意運動は手指屈曲伸展、足関節底背屈が可能。移動は介助型車いす。座位保持装置等は不要であるが、腰椎側彎が強く、腰椎ベルトとシーティングによる座位保持支援を必要とする。自宅ではソファーにセッティングすれば介助なしに何とか長坐位保持が出来、携帯メールやパソコン操作(マウスのみでキーボードは不可)、テレビゲームを楽しむことが可能であった。
【当院受診に至るまでの経過】
乳児期から学童期までは自宅から車で1時間程の療育専門機関でリハを受けながら、自宅生活を送っていた。卒業後は1ヶ月に1回、継続してリハを受けていたが、当院のように地域でも受け入れ可能な機関ができたことにより、4年前より当院でのリハが開始となった。
【当院での治療経過】
呼吸筋の筋力維持訓練、変形進行予防のための立位保持訓練、手指機能維持のためのactivityを用いた手指機能訓練を中心に外来リハ継続中、平成21年12月より体調を崩し、入退院を繰り返す。その後すぐに胃瘻造設、翌年2月気管切開術を施行。気管切開直後より呼吸理学療法を中心とした機能訓練の開始。コミュニケーション手段獲得に向けての上肢機能訓練、日中余暇活動の提供と臥位での視覚使用に慣れるためのパソコンによる動画視聴も実施した。また、回復に合わせ積極的に座位保持訓練を実施し、術後35日で日中の呼吸器必要無く、車いす座位保持2時間が可能な状態となり退院の運びとなった。
【地域連携】
退院に向け、院内カンファレンス(Dr.・Ns.・MSW・リハ)を実施し、その後在宅支援スタッフ(訪問看護ステーション・市役所障害福祉課)と当院スタッフでチームカンファレンスを実施した。在宅に必要な機器・サービスの確認と申請等の手続き、意思伝達装置の提案と呼吸器搭載型リクライニング車いすの紹介を行った。
【まとめ】
短命といわれる筋ジスの方たちが自らの意志で在宅生活を望むことは意義あることであるが、地域の受け皿はまだ少なく、自宅から遠方の専門医へ紹介されることが多い。しかし、今回の事例のように『専門の病院で一日でも長く命を繋ぐことよりも、一日でも長く地域で生きていきたい』という希望がある場合、私たちは地域で可能な限りの支援を行っていくべきである。専門機関での医療か地域医療か、当事者が自分の人生を自分で選択できる地盤を作っていくことが私たち医療に携わる者の今後の課題であると感じる。