抄録
【目的】
昨年の本学会において,ブリッジ動作時に下肢先端の出力方向を極力水平方向へ向けるよう指示することにより,従来効果が薄いとされてきた膝関節伸展筋群においても筋収縮の促通が得られる可能性があることを報告した.しかしながら,臨床現場においては下肢先端の出力方向を患者にイメージさせることが困難な場合もあるため,より簡便な条件設定が望まれる.
そこで今回,動作開始時の膝関節屈曲角度に着目し,下肢先端の出力方向と筋出力比率の変化について検討した.
【方法】
対象は本研究の主旨を説明し同意を得た,整形外科的及び神経学的疾患の既往がない健常男子大学生10名(年齢22.0歳,身長168.8±6.1cm,体重59.3±5.7kg)とした.開始肢位は背臥位で膝関節屈曲位,足関節背屈位,両上肢腕組み,両下肢間は肩幅位とした.開始肢位の膝関節角度を70°,90°,110°とした3条件について,三次元動作解析システム(VICON MOTION SYSTEM社製VICONMX,AMTI社製床反力計)を用いて計測を行った.ブリッジ動作時の下肢先端出力方向は任意とし,股関節伸展角度0°を最終肢位とした.抽出された3条件下の運動力学的数値をFriedman検定にて比較した.また,各マーカの空間座標と床反力値をFEMS Program(計算力学研究センター)にて分析し,最終肢位における股関節拮抗単関節筋,膝関節拮抗単関節筋,及び拮抗二関節筋の出力比率を比較した.
【結果】
最終肢位の前後方向床反力は,膝関節角度70°,90°,110°でそれぞれ体重比-0.08,-0.07,-0.03〔Nm/BW〕であり,膝関節角度の増加とともに前方化する傾向にあった.関節モーメントは3条件すべてにおいて股関節伸展モーメント,膝関節屈曲モーメントを示し,膝関節角度70°と110°間で有意に増加した(P<0.01).FEMSにより算出された筋の出力比率は,大腿二頭筋短頭-大腿広筋群において,それぞれ60.4:39.6,68.7:31.3,73.8:26.2であり,膝関節角度70°と110°間で大腿広筋群の出力比率が減少した(P<0.01).
【考察】
3条件において床反力成分に有意差を認めなかったものの,膝関節角度の増加とともに,股関節および膝関節の関節中心位置と床反力作用点の距離が増加するため,モーメント値が増加したものと思われる.また,膝関節角度110°において大腿広筋群の出力比率が減少したことから,膝関節角度の増加は膝関節伸展筋群の筋収縮促通を目的とするには不適切であると考えられる.今回,膝関節角度の設定のみでは膝関節伸展筋群に効果的な出力方向制御を得ることができなかったため,今後は下肢先端の出力方向と開始肢位の角度設定の両者を考慮した条件設定を行い,より簡便で効果的なブリッジ動作の方法について検討したい.