九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 234
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全身熱傷により自信の喪失がみられた患者に対する作業療法の関わりの一例
*熊崎 利英横山 真吾黒木 一誠荒木 志保本田 拓也松尾 理恵井上 健一郎
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抄録
【はじめに】
今回全身熱傷後約4ヵ月経過した症例を担当した。受傷後夫を亡くしており、自信の喪失や抑うつ的発言が聞かれ、日中臥床傾向で活動量の低下がみられた。しかし、抑うつ的発言が聞かれる中でも、現在も趣味活動を継続したいという気持ちがあることがわかった。そこで、楽しみの提供を目的に趣味活動をアクティビティーとして取り入れた。その結果、自信の獲得や活動量の向上が見られたためここに報告する。
【症例紹介】
70代女性。自宅で入浴中に浴槽内で意識消失し、_III_度の熱傷を体表面積15%受傷する。A病院に救急搬送され病日29日目に右足指第1指と左足指第2~5指の切断と左右上下肢に植皮術を行う。病日118日目治療の継続とリハビリ目的で当院へ転院となる。転院時は体表面積10%の熱傷。痛みや熱感の訴えが常に聞かれる。退院後は独居予定。30代の頃よりゴルフをしており、ゴルフが生きがいと答える。症例のデマンドはゴルフが出来るようになる。家族のデマンドは一人暮らしができるようになって欲しい。
【評価】
ROMは両側共に手指及び手関節、足関節に中等度屈曲・伸展制限あるものの、基本動作やセルフケアは自立。FIM移動5階段1入浴4(運動72/91認知29/35)握力は左右ともに0kg。STEF右62点、左45点。「こんがん思いをするならあのとき死んでたら良かったのに」「この手ではなんもできんやろ。」「動く気分にならん。」という発言が聞かれた。〈BR〉【問題点】
#1自信の喪失からくる活動量の低下 #2抑うつ傾向 #3ROM制限 #4筋力低下
【経過】
活動量向上を目的とした関わりとして、本人のデマンドであるゴルフを提案したが、当初は「ゴルフはできんやろ」と言う発言が聞かれ消極的であった。そこで、ゴルフについての会話から始めた。OTRがスイングをすると、動作をみて口頭でフォームの指導し、徐々に自らも素振りをする動作がみられるようになった。次に練習場面を屋上へ移し、軽く握りやすい棒を把持したスイングを開始した。これに合わせて、ゴルフの練習に使用する新聞紙の球作りを行った。次第に「今日も屋上行くね?」と言いOTRを誘うようになった。その後、自ら道具を持って屋上まで階段で移動し、作成した球をクラブで打ち、打った球を拾うなど主体的に活動を行うようになった。「ゴルフしに行こうか?」や「バスに乗って打ちっぱなしに行こうか?」という発言が聞かれるようになった。身体機能面ではROMの改善が見られ、握力右16.7kg左0kg。STEF右86点、左69点。 FIMは移動6階段6入浴6(運動86/91認知31/35)であった。
【考察】
消極的であった症例に対し、会話やOTRへの指導という形で導入の工夫を行った。また手指の可動性を考慮して握りやすい棒を用いたスイングなど身体面へも配慮した道具を用い失敗体験を少なくしたことが、成功体験に繋がり、自信の獲得となったと考えられる。さらにゴルフを通して楽しみを再獲得したことが、他者との交流や屋外活動への意欲向上と繋がり、病棟内から屋上へと生活範囲の拡大や活動量の向上が図れたと考える。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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