九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 235
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健常者における腰痛の程度とQOLの関係について
ー精神的健康に着目してー
*堤 聖堤 より子斉藤 あさみ高塚 実那子中野 一樹永井 良治
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キーワード: 健常者, 腰痛, 精神的健康
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抄録
【目的】
高齢者や症例に対しての疼痛や身体機能とQOLとの関連性ついて検討された報告は多く見られている。しかし健常者における疼痛や身体機能とQOLの関連性に関する報告はあまり見られていない。腰痛は全人類の80%が生涯で一度は経験するといわれるほど頻度の高い症状であり医療従事者にも多く見られる。今回、院内において腰痛アンケートを行い健常者における腰痛の程度とQOLの関連性について比較検討したのでここに報告する。
【対象】
対象は書面によりアンケートの趣旨を説明し、同意を得た当院職員221名。そのうち有効回答が得られた183名とした(男性57名、女性126名 平均年齢29.6±10.9歳 19歳~65歳)。
【方法】
アンケートにより個人プロフィールのほか腰痛の有無、痛みの程度(Visual Analogue Scale;VASで評価し、得点が高いほど痛みが強い)等を調査。アンケート結果より腰痛のない者をA群(以下A群)、腰痛がある人のうちVAS中央値以下の者(VAS1~4)をB群(以下B群)、VAS中央値より大きい者(VAS5以上)をC群(以下C群)の3群に分けた。QOL評価にはMOS Short-Form36(以下SF-36)を用い自己記入式アンケートを実施した。SF-36は身体機能(PF)日常役割機能・身体(RP)体の痛み(BP)全体的健康感(GH)活力(VT)社会生活機能(SF)日常生活機能・精神(RE)心の健康(MH)の8項目の下位尺度からなり、それぞれ100点満点に換算。またこれらより身体的健康度(以下PCS)と精神的健康度(以下MCS)の因子得点を算出。A群B群C群の3群間の各下位尺度得点、各要約尺度に対してクラスカルワーリス検定及び多重比較検定にて統計処理を行った。
【結果】
SF-36の各下位尺度間ではPFとGHではA群とC群(p<0.01)との間に、B群とC群(p<0.05)との間に有意差が認められた。またBPでは3群それぞれの関係に有意差が認められた(P<0.01)。PCSとMCSではA群とC群との間に有意差が認められた(P<0.05)。RP、SF、VT、RE、MHの尺度では3群に有意差は認められなかった。
【考察】
SF-36下位尺度のPFとGHにA群とC群、B群とC群間で有意差が認められたことから腰痛の程度が強いほど実際の身体機能に低下があり、健康状態が悪い傾向にあることが示唆された。またRPや精神的健康度に関わるVT、SF、RE、MHに有意差が認められないことから健常者での腰痛の程度の差では身体的理由による活動時間の減少や制限等は見られずそのため精神的健康が保たれているのではないかと考えられる。しかし要約尺度であるMCSではA群とC群の群間に有意差が認められた。鈴鴨らによると「日本語版SF-36はVT、BP、GHが欧米よりも精神的な因子により強く寄与しており現段階では日本語版で要約尺度を使用することを推奨していない。」と述べている。以上のことを踏まえると必ずしも健常者では腰痛が精神面には影響を及ぼすとは言い切れないと考える。
【まとめ】
今回の調査により健常者での腰痛の程度は精神的健康との関係が低いことが示唆された。今後、腰痛教室などの介入を行い、疼痛の変化やそれに伴うQOLの変化を追跡調査していきたい。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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