九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 236
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医療従事者の出産後の腰痛についての調査
*斉藤 あさみ村上 武士白石 伸也堤 より子堤 聖高塚 実那子中野 一樹
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キーワード: 妊娠, 腰痛, 姿勢
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抄録
【目的】
妊娠中に腰痛が出現することはよく知られている。出産後腰痛の多くは数ヶ月以内に軽快するが、遷延する場合もあり、瀬尾らは出産後6ヶ月以上腰痛が持続したものが12.2%おり、出産は女性の慢性腰痛の危険因子であると報告している。理学療法士(以下、PT)が妊婦および中・高年の女性と関わっていく上で、妊娠が及ぼす身体機能への影響を把握することは大切であると考える。今回、産後6ヶ月以降も腰痛が持続している対象者(以下、長期腰痛例)の腰痛について研究した。
【方法】
対象は、研究の同意を得られた出産経験のある職員41名に対し、アンケートによる調査を実施した。妊娠前から腰痛がある者は除外した。職種は、看護師、看護助手、介護福祉士、事務、歯科衛生士、調理助手、PTが対象である。平均年齢44±10歳(24~65)妊娠中から産褥期まで・長期腰痛例の疼痛の部位について調査した。
【結果】41名中、長期腰痛例は19.5%であった。妊娠中の腰痛の部位は仙腸関節部や腰背部に多く、殿部にもみられた。産後6ヶ月以降の腰痛では腰背部に多かった。
【考察】
先行研究と比較して、長期腰痛例が多かった。これは、対象者の年齢が高いため出産前後の指導が不十分であることや、また産後1年で職場復帰するため活動性が高く腰痛が出現しやすいと考えられる。妊娠中の疼痛部位は仙腸関節部や腰背部に多くみられたが、長期腰痛例では腰背部に多かった。妊娠中の腰痛は、村井らによると、体形変化により腰椎前弯を来たす腰椎由来の腰痛と、リラキシンホルモン作用で関節構成靱帯を弛緩させ異常可動性を来たし痛みが誘発される骨盤由来の腰痛があると報告されている。更に、リラキシンホルモンは出産の準備の一端を担い、妊娠早期から多量に分泌され、出産後すぐに収束すると述べている。そのため、産後数ヶ月で仙腸関節部の疼痛は軽快し、産後6ヶ月以降も持続する例では腰背部に疼痛が多かったと考える。この腰背部痛の原因は、妊娠中期から明らかな子宮の拡大と共に腹筋群が伸張され前方に突出する。そのため、姿勢を保持するために腰背部の筋群に過度な負担が生じ疼痛が出現すると考えられる。産後もその姿勢が修正されず、かつ妊娠・出産により腹部筋や骨盤底筋が伸張されることで体幹の動的安定化機構が作用しづらい状態が続くため、疼痛が持続するのではないかと考える。
【まとめ】
対象者の年齢の高さや活動性により産後のケアが十分できず先行研究と比較して長期腰痛例が多く、腰背部に腰痛の訴えが多かったと考える。この研究から、出産前後に骨盤底筋や腹部筋等の機能回復の運動や、姿勢・動作の指導を早期に実施する必要性があると考えた。また、臨床においてPTが中・高年の女性に対して、妊娠が及ぼす身体機能への影響を考慮して評価、治療することが重要であると考える。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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