九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 239
会議情報

母趾テーピングが立位バランス機能に与える影響
*村井 直仁芹川 節生田中 好乃
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
【目的】
 転倒予防の訓練には下肢筋力トレーニングとバランス機能向上が有効であるとの報告がある。高齢者の転倒には加齢に伴う平衡機能障害の一因子に足底感覚の低下が考えられている。今回は、足底の中でも多数のメカノレセプターが存在する母趾に着目し、母趾に巻くテーピングが重心動揺に与える影響について比較し、バランス訓練としての有用性を検討したので報告する。
【対象】
 自立歩行可能であり、足部の感覚障害がない当院通所リハ利用者において研究内容を説明し、同意を得られた21名(男性3名、女性18名、平均年齢78±7.8歳)を対象とした。
【方法】
 対象者を開眼・閉眼の順で30秒間起立位とし、重心動揺を測定した。1回目はキネシオロジーテープ(以下テーピング)を巻かない状態で測定し、2回目は両母趾にテーピングを貼付した状態で測定した。測定時の姿勢は両上肢を下垂位とし、視線は一定とした。それぞれの測定間には十分な間隔をおいた。
【結果】
 閉眼時の総軌跡長はテーピングなし105.5±53.6cm、テーピングあり86.5±28.3cm、外周面積はテーピングなし6.3±4.6cm、テーピングあり4.6±2.5cmと有意な低下が認められた(P<0.01)。開眼時の総軌跡長はテーピングなし71.2±28.4cm、テーピングあり69.4±21.8cm、外周面積はテーピングなし3.5±2.3、テーピングあり3.4±1.4と低下はしたが、有意差は認められなかった。
【考察】
 閉眼時の両母趾へのテーピング貼付で総軌跡長、外周面積に有意な低下が認められた。細田らによると、加齢などにより足底のメカノレセプターは機能低下に陥り、情報の量的・質的低下を招き、その結果、平衡障害を誘発するとしている。今回、テーピングをメカノレセプターの分布密度が高い母趾に貼付したことが皮膚感覚刺激となりメカノレセプターが賦活され、求心性の情報が中枢にて統合され、抗重力筋の緊張が誘発され、フィードバック制御とフィードフォワード制御に影響を及ぼし、立位姿勢制御機能の向上が現れたと考える。また、異物貼付という足底への触刺激が注意力を増大させ、体性感覚野や感覚伝導路を賦活させたことも一要因として考えられる。開眼時では有意差が認められなかったが、Bohannonらによると、加齢とともに姿勢バランスが視覚への依存が高まると報告しており、視覚による代償が大きく関与していることが示唆される。以上のことから、母趾へのテーピングは高齢者の転倒予防策の一手段として有用であると考えられる。
著者関連情報
© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top