九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 242
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簡易シーティングによる食事動作自立を目指して
*谷満 加恵
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抄録

【はじめに】
今回、脳梗塞を発症し、右不全麻痺を呈した80代の女性を担当し、車椅子座位の安定を図ることで食事の自己摂取が可能となったため、以下に報告する。
【症例紹介】
A氏 80代 女
診断名:脳梗塞(H21.11.19)
現病歴:H21.1.28自宅にて転倒し、B病院入院。11.19右手足の脱力感あり、11.21C病院入院。入院時右上下肢麻痺,CT上左側脳室周囲に低吸収域認められる。リハ目的にて12.11当院入院。
既往歴:高血圧、変形性腰椎症、くも膜下出血術後(H1)
家族構成:独居。キーパーソン長男。
介護保険:要介護3
今後の方向性:施設
【入院時評価】
症例は、円背,左側弯があり白髪で小柄。日中臥床傾向で、表情固く自発的な発言や動作が見られない。右不全麻痺(右上肢・手指・下肢BRS_IV_)で両上下肢・体幹MMT3レベル。HDS-R13点。基本的動作全介助。ADLは食事一部介助で他は全介助。
<標準型車椅子での座位姿勢評価>
体幹右側屈,骨盤後傾,仙骨座り。頚部の保持困難で、姿勢修正に介助要す。10分程度で疲労の訴えがあり、標準型車椅子での座位保持困難。
<食事場面における評価>
軟飯,キザミ食。左上肢にてスプーン使用。コップ把持困難。6~7割自己摂取可能であるが、体幹右側屈著明。約5分で座りなおしの介助要す。左上肢のスプーン操作では、前腕回内・外,空間保持に介助を要す。右上肢の協力動作なし。
【経過】
車椅子をモジュラー車椅子に変更。背シートの調整と座面クッションには、臀部・大腿部分を削ったウレタンクッションを使用。モジュラー車椅子変更直後、頚部・体幹・骨盤が正中位に保持され、約30分の車椅子座位可能となった。食事に関しては、プラスチックスプーンに太柄スポンジをつけ、リハ食器に変更。オーバーテーブルを使用し、食事が見えやすいような環境設定を行った。食事開始時は、易疲労のため、左上肢の操作介助を行い、徐々に全量自己摂取可能へ促した。また入院1週間後より意思表示が出現した。
現在、プッシュアップ等の動作がみられるようになり、H22.2.16より標準型車椅子に変更。座面には、座布団とウレタン,板を敷いて2時間程度の座位保持可能となっている。食事に関しては、銀スプーンに太柄スポンジ,食器の下に滑り止めマットを敷いて摂取している。15分程度で全量自己摂取可能。右上肢でお皿を回すことや傾けるなど、自発的動作がみられるようになった。
【考察】
本症例は、入院時著明な筋力低下,脊柱変形などの身体機能低下と標準型車椅子のスリングシート,バックサポートの形状から、座位姿勢が崩れ、食事動作に悪影響を及ぼしていたと考えられる。そこでモジュラー車椅子の使用,簡易シーティングを行って座位の安定性を図ることで、上肢の操作性を優位に促したのではないかと考える。その結果、食事へ集中する事が可能となり、本人の動作のタイミングに合わせた左上肢の操作介助を繰り返す事で、食事動作の獲得に至ったのではないかと考える。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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