主催: 社団法人日本理学療法士協会九州ブロック会・社団法人日本作業療法士会九州各県士会
【はじめに】
当院における投球障害肘に対する理学評価は、肘関節・下肢・体幹も含めた全身は勿論のこと、肩関節の評価として原の11項目も利用している。原の11項目における肩甲上腕関節の柔軟性を評価するCombined Abduction Test(以下CAT)・Horizontal Flexion Test(以下HFT)は、肩甲骨を徒手的に固定して上肢を外転や水平屈曲させ、その角度を計測する方法で左右差を調べるが、陽性と陰性を判断する角度基準が明確でない。そこで今回、投球障害肘に対するCAT・HFTの初回の陽性角度と陰性に改善した角度を計測し比較検討した。
【対象】
野球部に所属し、投球障害肘を持つ男性30例、全例投球側。平均年齢は12,7±1,7歳(10~17歳)。なお、対象者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た。
【方法】
投球禁止・投球開始・試合復帰時期、初回の陽性時の角度と陰性に改善した時のCAT・HFTをそれぞれゴニオメーターで計測し比較した。陽性と陰性の判断基準は原に準じ、CATにおいては上腕部が側頭に近づくと正常で、近づかなければ異常、HFTは手指が反対側の床に着くと正常、床に着かない場合は異常と判断した。また、投球禁止~投球開始までの期間、投球開始~試合復帰までの期間を計測した。
【結果】
投球禁止宣告時の平均CATは103,5°±6,3(29/30例陽性)、HFTは88,7°±3,0(30/30例陽性)。投球開始許可時の平均CATは129.5°±1,3(1/30例陽性)、HFTは106,5°±5,6(10/30例陽性)。試合復帰許可時の平均CATは128,3°±3,1(2/30例陽性)、HFTは105,3°±6,2(11/30例陽性)。初診時のCAT陽性平均角度は103,3±6,3、陰性改善時は130°±0。初診時のHFT陽性平均角度は89.5°±1,8、陰性改善時は110,5°±0,9。
投球禁止~投球開始までの平均期間は28,2±10,7日、投球開始~試合復帰までの平均期間は54,9±20,4日。
【考察】
投球障害肘を評価する上で、肘関節よりも中枢部である肩関節・体幹を評価することは必須である。それ故に、投球障害肘を治療する際、原の11項目に含まれているCAT・HFTは肩甲上腕関節の柔軟性を的確に診る上で非常に重要である。しかし、患者の理解力や治療における目標設定が曖昧であり、双方とも陽性・陰性の判断角度が明確ではない。
今回の研究によって、目標角度がCATはおおよそ130°、HFTはおおよそ110°と明確になることで、具体的な数値として表現されれば、患者と治療側の間で問題点や治療選択が共有でき、自己認識が高まると思われる。