抄録
【はじめに】
近年、肩腱板断裂に対する関節鏡視下(以下AS)手術療法が増加し、1~2年後の術後成績の多くは良好である。しかし、急性期病院である当院では長期間のリハビリテーション(以下リハ)フォローは難しい現状にある。今回、当院にて入院から外来までリハ実施できた症例を通し、早期からの肩腱板断裂術後療法の結果をまとめ、その有効性について考察したのでここに報告する。
【対象および方法】
2008年2月から2010年4月までに当院で肩腱板断裂の手術を施行された者で、14名14肩(右肩9例、左肩5例)、男性9例、女性5例、平均年齢63.6±7.3 歳であった。断裂サイズ別では、不全断裂5例(ASデブリードマン)、小断裂2例〔鏡視下腱板修復術(以下ARCR)〕、中等度断裂5例(ARCR 3例、mini-open法2例)、広範囲断裂2例(mini-open法1例、大腿筋膜パッチ術1例)であった。平均経過観察期間は4.3ヶ月で、術前、術後の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(以下JOA score)、うち内訳の疼痛、機能、可動域の点数、機能項目内の外転筋力および可動域実測値を、各々術前・後で比較した。
【後療法】
中等度断裂修復の術後計画は、3日後より肩甲骨の自動運動による筋スパスム除去を開始し、術後1週より肩甲上腕関節の他動運動、腱板修復が進む3週以降より肩周囲筋群等尺性運動から筋収縮をはかり、修復が完了する5~6週より積極的筋力強化訓練を実施した。小断裂ではこれより早く、大断裂、広範囲断裂では遅く、それぞれおよそ1~2週間差ですすめられた。平均約2週間の入院リハ中は毎日1単位程度行い、外来リハとなってからは、1週間に3日約2単位程実施し、著明な可動域制限がなければ週1~2日フォローとなった。可動域、筋力訓練の自主練習は十分理解するまで徹底して行い、主治医の指示のもとリハ終了となる。
【結果】
JOA scoreの平均は、総合点が術前66.8±14.1点、術後81.9±13.3点と有意に改善した(P<0.01)。機能およびその項目内の外転筋力では、術前後に有意差は認められず、可動域、疼痛では有意差が認められた(P<0.05)。可動域実測値では、自動前方挙上の術前平均114.3±40.1°、術後平均135.7±32.0°で有意に改善(P<0.05)し、他動前方挙上の術前平均147.9±31.2°、術後158.6±14.6°と有意差は認められなかった。
【考察】
平均経過観察期間9ヶ月、JOA score平均93点以上という他施設の報告と比較すると、今回の当院の結果は、これらの約9割の成績を約4ヶ月で達成できた。術前後では、疼痛軽減、それによる自動可動域の改善ははかれたが、機能および外転筋力において改善はみられなかった。手術適応の高齢化が進む中、治療の目的の多くが疼痛の緩和で、日常生活動作の改善が主な目標となる。さらに、断裂の程度に関わらず、術前と変わらない機能、筋力を得られている点を踏まえると、治療効果は十分得られていると考える。
【まとめ】
昨今の腱板断裂において、手術適応の高齢化が進んでいる中、今回の結果からも早期運動療法の有効性が示唆された。