質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
語り部活動における語り手と聞き手との対話的関係
震災語り部グループにおけるアクションリサーチ
矢守 克也舩木 伸江
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2008 年 7 巻 1 号 p. 60-77

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抄録
本論文は,阪神・淡路大震災の体験を語り継ぐことを目的に被災者が結成した語り部グループが,震災から 10 年を経て直面した現実的な課題を,バフチンの対話的な発話論の観点から理論的に位置づけ,課題の解消にとりくんだアクションリサーチについて報告したものである。その課題とは,語り手が語ろうとする「震災の語り」と聞き手が期待する「防災の語り」とをどのように接合するかというものであった。本論文では,まず,バフチンが提起する「権威的な言葉/内的説得力のある言葉」の概念が,複数の「言葉のジャンル」の間のグループ・ダイナミックスに関わる概念であることを指摘した。その上で,語り部グループが直面していた課題が,話し手と聞き手が「権威的な言葉」によって特徴づけられる集合的構造に支配されていることに起因することを指摘した。次に,この理解をふまえて,被災地で防災について学ぶ大学生と語り手たちが継続的に交流する機会を設定することによって,語り部活動を「内的説得力のある言葉」によって特徴づけられる「ジャンル」へと再編することを試みた。その結果,語り部活動は,語り手と聞き手との応答関係,さらに直接の聞き手を越えた広範な人びとを応答者とする応答の連鎖へと再編され,先に述べた課題についても解消へ向けた展望が開かれた。最後に,本研究における研究者の役割をバフチンの「能動的社会観」の観点から位置づけた。
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© 2008 日本質的心理学会
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