抄録
【目的】
最長筋は脊柱起立筋のひとつであり,脊柱の直立位保持に作用する抗重力筋である.近年,筋硬度計を用いて筋の緊張度を測定した研究が散見されるようになっている.我々は,第44回日本理学療法学術大会において起立傾斜角度の増大に伴う最長筋の筋硬度の変化について調査し,起立傾斜角度の増大に伴って最長筋の筋硬度は除々に高い値を示し,起立傾斜角度60°で最も高くなることを報告した.しかし,筋電図による筋活動の評価は行っていなかったため,最長筋の筋活動の変化については検討していなかった.そこで,本研究では,起立傾斜台による起立傾斜角度の増大に伴う最長筋の筋硬度および筋電図の変化について調査した.
【方法】
対象者は一般成人18名(男性11名,女性7名)であり,平均年齢は男性21.5±1.2歳,女性21.6±1.5歳であった.なお,すべての対象者に対し,事前に書面にて研究の目的と内容を説明し,同意を得てから調査を行った.筋硬度は,生体組織硬度計PEK-1(井元製作所)を用い,L4棘突起レベルの両側腰部最長筋の硬度を測定した.筋電図は,誘発筋電図記録装置neuropack MEB-2200(日本光電)を使用し,筋硬度の測定部位から2横指上の両側腰部最長筋を測定した.測定手順は,対象者を起立傾斜台に腹臥位にさせ,傾斜角度0°,15°,30°,45°,60°,75°での筋硬度を呼気時に3回測定し,平均値を代表値とした.筋電図については,各傾斜角度で5秒間測定し,前後1秒間を除いた3秒間の筋電図波形を記録して積分筋電図(iEMG)を求め,腰部最長筋の最大収縮時におけるiEMGで除して%iEMGを算出した.統計解析については,男女間における基本特性の比較は対応のないt検定,各傾斜角度での両側腰部最長筋の筋硬度および%iEMGの変化の比較は,二元配置反復測定分散分析を行い,5%未満をもって有意とした.
【結果】
性別でみた起立傾斜角度による両側腰部筋硬度の変化では,男性は起立傾斜角度60°から両側腰部最長筋の筋硬度および%iEMGが有意に高い値を示した.しかし,女性では,%iEMGは男性と同様の変化がみられたが,筋硬度および%iEMGに有意な変化がみられなかった.
【考察】
本研究の結果,男性では,起立傾斜台を用いて腰部最長筋の筋硬度と筋活動の変化を評価できることが示された.一方,女性において筋硬度および%iEMGに有意な変化が得られなかった理由として,サンプル数の少なさもあるが,皮下脂肪厚,筋量やその厚さなどが影響している可能性がある.