抄録
【はじめに】
作業療法ではクライエントの日常生活上の作業の獲得を支援する.どの作業の獲得を目標にするかについての意思決定には,クライエントの希望や意思が十分に反映されていることが望ましい.しかし先行研究では,目標設定に関して作業療法士とクライエントの両者の認識にはギャップがあることが報告されており,その理由の一つに,意思決定の実践的なガイドライン不足が指摘されている.現在,我々は作業選択の意思決定を支援するため,ポータブルデバイスもしくはパソコンで動作するアプリケーションソフト(Aid for Decision-making in Occupation Choice; 以下ADOC)を開発中である.今回はADOCの概要とβ版の試用経験について紹介する.
【ADOCの概要】
ADOCは,日常生活の様々な作業場面が描かれたイラストを,クライエントと作業療法士がポータブルデバイスやパソコンの画面上で取捨選択しながら,クライエントにとって価値のある作業を見つけるための意思決定支援ソフトである.イラストは,FIM,老研式活動能力指標,社会生活基本調査などから446項目の作業を抽出し、ICFの「活動と参加」の大~中分類を基準に振り分けた.そして,最終的に8カテゴリー90項目の作業を選出した(セルフケア;6項目,移動・運動;8項目,IADL;13項目,仕事・学習;4項目,対人交流;4項目,社会参加;6項目,スポーツ;20項目,趣味;29項目).各90項目の作業のイメージ図案を作成し,イラストレーターにイラスト作成を依頼した.アルゴリズムは,1)クライエントにとって重要な作業を選択する.2)1)選択した重要な作業の重要度を5段階で評定する.3)作業療法士がクライエントにとって必要と考える作業を選択する.4)両者の選んだイラストを画面に表示して,両者で協議の上,作業療法で目標とする作業を決定する.5)決定した作業の満足度を5段階で評定する.6)選択した作業に関する作業療法プランを立案してPDFを作成する。7)PDFを印刷してクライエントからサインをもらう.となっている.
ADOCの試用
パソコンを用いたβ版の試用において,これまで通常の面接では引き出せなかったクライエントの意思や希望を引き出すことができた.また,作業を選択するプロセスで,クライエントが主体的に問題を解決しようとする場面もみられた.所要時間は20分から40分であった.これらの試用経験から,ADOCは作業療法目標設定に関する意思決定において有用である可能性が示唆された.今後は,iPad(apple)版およびwindows版アプリケーションの開発を進めるとともに,信頼性と妥当性の検証も行う予定である.