九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 338
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脳損傷者に対するPaced Visual Serial Addition Task(PVSAT)導入の試み
*児玉 陽子宮本 一樹長 綾子斎藤 弘道志波 直人重森 稔岩佐 親宏
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キーワード: 注意機能, 評価, PVSAT
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抄録
【はじめに】
 Paced Auditory Serial Addition Task(以下PASAT)は、脳損傷例における情報処理速度低下などの評価に用い、課題成績は高次の注意機能を反映すると言われている。しかし、難易度が高く対象者のストレスを伴うことがある。FosらはPASATの変法として、パソコン画面で視覚的に数字を提示することで難易度を減じたPVSATを報告している。
今回、PASATがTrail Making Test(以下TMT)-Bの注意機能と類似していることに着目し、上肢麻痺や半側空間無視(以下USN)などによりTMTが施行困難な場合の代用としてPVSATを用いることができるか、症例を通して検討を行ったので報告する。
【症例紹介】
(症例1)53歳女性、クモ膜下出血。自宅にて歩行中のふらつきで発症。頭部CT上は左シルビウス裂に強いクモ膜下出血を認め、ネッククリッピング施行。ADLは自立していた。
(症例2)51歳男性、右被殻出血。帰宅途中、全身に脱力感を認め発症となる。左上下肢麻痺及び感覚障害があり、運動維持困難やUSNがみられた。ADLは食事・整容が自立で他は要介助であった。
【検査方法】
PVSATはPower Pointにて作成した画面にPASATと同様に1秒間隔、2秒間隔で数字を提示するように設定した。他の神経心理学的検査としてHDS-R、MMSE、Wisconsin Card Sorting Test(以下WCST)、TMT-A・B、PASAT-1秒用・2秒用を本人の同意を得た後、検査についての説明を十分に行った上で施行した。
【結果】
症例1はHDS-R・MMSEともに30点、WCST達成カテゴリー4、TMT-Aは97秒でBは123秒、PASAT-1秒用は正解数17個で2秒用は15個。PVSAT-1秒用は正解数32個で2秒用は56個であった。
症例2はHDS-R26点、MMSE27点、WCSTは達成カテゴリー5、TMTはUSNの影響で施行困難、PASAT-1秒用は11個で2秒用は16個。PVSAT-1秒用は17個で2秒用は28個であった。
【考察とまとめ】
今回、PVSATと他の神経心理学的検査を2名の脳損傷者に対し施行した。2症例とも検査上、知的水準や前頭葉機能面の著しい問題はみられず、検査の意図を十分理解できる状態であると考えられた。PVSATの結果としては、2症例ともPASATよりも正当率が増しており、Fosらの報告通り難易度が低い課題であると考えられる。また、症例2においてはUSNの影響でTMTが施行困難であったがPVSATは可能であったため、TMTが使用できない場合にPVSATを代用とすることが可能ではないかと考えられる。今後、症例数を重ね検討をしていく必要があると考える。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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