九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 74
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経済的および家族介護に問題のある患者の自宅復帰
~他職種との連携を通じた自宅復帰支援を経験して~
*加治 哲也
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抄録

【はじめに】
 今回、経済的に余裕がなく、家族による介護が望めない患者を担当する機会を得た。様々な職種と連携を取り、自宅復帰を果たすことが出来たのでここに報告する。
【症例紹介】
 80歳代女性。診断名:第12胸椎圧迫骨折(H21/11/24発症)。既往歴:脳梗塞(BRS:V:IV:V)、両膝OA、認知症(HDS-R18点)。生活背景:公営団地にご主人と娘2人の4人暮らし。患者は自宅に引き篭ることが多かった。ご主人は軽度の認知症があり、他人から手助けを受けることや、介護サービスを受けることに否定的である。娘2人は共に知的障害があり定職に就いておらず、また患者の病態理解も乏しい。世帯収入はご主人の年金である月13万円程度である。
【経過】
 H21/12/1リハビリ開始(腰痛VAS7/10、BI25点、FIM43点)。治療経過は順調で、H22/1/28には階段昇降も監視にて可能となり、受傷前以上のADLを獲得した(腰痛VAS0/10、BI70点、FIM93点)。H22/2/18住宅訪問、退院前カンファレンス実施。そこで家族に介護サービスや住宅改修の必要性を説明したが、自己負担の増額は出来ないとの訴えがあった。そのため医療福祉相談員、ケアマネジャーらと支援体制を整えH22/2/27退院となった。
【支援内容】
 患者の自宅復帰を困難にした問題は、まず家族が介護協力できない点である。次に世帯収入が低いために介護サービスの導入や必要な福祉用具の購入を拒否している点である。
 これらの問題に対して以下の支援を行った。家族が介護協力できない問題では、患者が最低限自宅でするADLである食事、トイレ、更衣、洗濯の自立を目指した。そのため作業療法士にもリハビリ介入してもらい動作の自立を果たした。世帯収入の問題では生活保護を検討した。しかし申請には患者夫婦と娘の世帯を分離する必要があり、それを家族が受け入れられず申請を断念した。介護サービスや福祉用具の導入を拒否する問題では、サービス内容や購入品を必要最低限なものにし、家族の負担金額が大幅に増額しないように配慮して家族の了承を得た。介護サービスはADLを維持し、自宅での引き篭もりを防ぐために週2回のデイケアを導入した。福祉用具はベッドと杖のみを導入した。ベッドは法人内で呼び掛けをして不要な物を引き取り利用した。杖は100円ショップで販売している物を調整して使用した。
【まとめ】
 今後、近年の経済不況や核家族の増加などにより金銭的、家族介護に問題を抱える症例は増え、こちらが想定した介護サービスや住宅改修のプランが実現出来ない事例も多くなると推測される。今回、様々な職種と連携して自宅復帰支援をする中で、介護保険サービス以外の社会資源を模索し、福祉用具購入のコストを下げるために代替品を探すなど、広い視野を持って患者を支援する事の重要性を実感した。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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