九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 80
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脛腓骨骨折術後にCRPSを引き起こした1症例
無痛を中心とした運動療法
*吉田 純一杉尾 秀一
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キーワード: CRPS, 痛み, 運動療法
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抄録

【目的】
複合性局所疼痛症候群(以下、CRPS)は世間に浸透しつつあるが、未だ状態を考慮し治療を実施しているのは数少ない現状である。今回、約4ヶ月間無痛を中心とした運動療法を施行した結果、疼痛および可動域の改善が認められたのでここに報告する。尚、発表に際し本症例に同意を頂いた。
【症例紹介】
30代男性。診断名:左脛腓骨骨折。H21年8月バイクにて転倒され受傷。4日後他院にて髄内釘による骨接合術施行し、PT開始。H21年10月(OPE後48日)骨癒合乏しく、脛骨遠位・足根骨部に骨萎縮認めており、ADL障害強く残存しているため当院へ転院の運びとなる。
【方法】
痛みは足背部・踵部にみられ荷重時に著明。下腿遠位・足部に非圧痕性浮腫および皮膚光沢、足部全域に発汗。ROM膝屈曲95°足背屈-15° MMT大腿四頭筋4 前脛骨筋3。歩行は両松葉杖にて自立していたが荷重はほぼできていない状態であった。運動療法は関節運動学的アプローチ博田法(以下、AKA)副運動技術後、膝関節・足関節の関節可動域運動を施行。
【結果】
初回の治療にて痛みはVAS8→VAS4と減少しROM膝屈曲95°→115°足関節背屈-15°→-5°と改善した。最大荷重量は32.0[41%]→40.8[52%]/78.0_kg_へ増大が認められた。OPE後(以下、PO)64d片松葉杖歩行PO73d一本杖歩行PO80d独歩開始しPO85d自宅へ退院。その後週に一度外来にて理学療法実施。PO160d痛みは足背部消失、踵部VAS1 と減少。非圧痕性浮腫は下腿遠位部消失、足部軽減。皮膚光沢、異常発汗消失。ROM膝屈曲145°足背屈10°最大荷重量79.5/79.5_kg_[100%] 歩行は足関節背屈制限のため左立脚時に体幹前屈生じるが、独歩にて荷重時痛なく可。
【考察とまとめ】
痛みの原因として骨折からの一次性のものに加え、二次障害としてCRPSの症状である疼痛と、足根部および足関節のjoint playが減少しており、特に距骨下関節でjoint playの減少が著明にみられたことから関節包内の運動異常による関節原性の痛みが考えられた。AKA副運動技術を行ったことにより関節包内の運動は改善され、関節原性の痛みは緩和し、関節可動域の増大が認められたと考えられる。また、関節可動域運動の際は関節面の滑りを誘導しながら実施したことにより、関節運動反射および関節静的反射を起こさずに無痛下で関節包外軟部組織の伸張が可能であった。このように無痛で運動療法を実施したことにより、CRPSの増悪を防ぎ、症状の軽減・骨癒合の促進に繋がったと考えられる。今回CRPSを生じた原因として、髄内釘による異物反応の他、急性期での痛みを伴う理学療法、症例本人の過度の自主練習といった過用・誤用が考えられた。この症例を通して、PTとして重要な役割は二次的な痛みの原因となりうる関節包内の運動を治療した上で、関節可動域運動や伸張運動を無痛下で行うことや悪化因子となりうる運動・動作へのアドバイスや量のコントロールなどを指導していくことが肝要になると感じられた。

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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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