九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 154
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手関節拘縮に対する新しいアプローチの試み
手関節牽引器による持続伸張法
*大川 尊規吉原 愛片山 智裕宮本 洋酒井 邦夫
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抄録
【はじめに】
遷延する手関節拘縮に対して物理療法,運動療法,スプリント療法を施行するも満足な関節可動域が得られないことがある。患者が更なる治療を希望する場合には,救済手術として関節授動術が適応となるが,必ずしも良い結果を得るとは言い難い.今回,我々はこれらとは全く違った新しいアプローチを考案したため,2症例の少経験と考察を含め報告する.なお,今回の研究および発表にあたり対象者への説明と同意を得ている.
【目的】
手関節牽引器により手関節を長軸方向に持続牽引し,橈骨手根関節(以下RCJ)腔および手根中央関節(以下MCJ)腔の開大を図ることで,関節包・靭帯の伸長を期待し,失った関節の遊びの再獲得を目的とする.
【方法】
手関節牽引器は鏡視下手術で用いる物と同様の仕組みを利用.肢位は背臥位で肩関節45°外転,肘90°屈曲位で手関節が長軸方向に牽引される様にする.点滴架台に滑車を吊るし,Finger trap(以下FT)を示指・中指にかけ3.5_kg_で15分間牽引する.
【評価】
手関節腔開大の評価は,第3中手骨長をA,その延長線における有頭骨遠位部との接点をb1,橈骨との接点をb2,その距離をBとして,B/Aで算出,これを手関節腔比(wrist joint cavity ratio:以下WJCR)と定義する.牽引前,牽引直後,牽引15分後のX線撮影を行い,デジタル画像にてWJCRを測定し,数値の増加をRCJ腔とMCJ腔の開大の和として捉えた.
【症例紹介】
2症例とも橈骨遠位端骨折後,創外固定器で6週間固定された後,ROM訓練を開始.症例1は術後4カ月で掌屈35°背屈25°,症例2は術後5カ月で掌屈25°背屈20°であり著明なROM制限が残存し,運動最終域で疼痛も伴っていた.
【結果】
WJCRは牽引前,直後,15分後と増加する傾向にあり,症例1で0.503,0.516,0.535へ,症例2で0.530,0.538,0.543と値が増加した.牽引後,患者は手関節の自動掌背屈運動により即時に動きが軽くなったことを感じる.また,他動運動において関節がつまる様な疼痛が消失した.牽引開始より2ヶ月間で自動ROMは症例1で背屈15°,症例2で掌・背屈ともに15°拡大した.
【考察】
WJCRが牽引前,直後,15分後と徐々に増加したことには,持続伸張により手外在筋が経時的に緩み,目的とする関節包・靭帯に伸張が加わることで拘縮組織が伸長されたと考える.また術後4~5カ月を経過していたが可動域が若干改善したこと,自動運動により動きが軽く感じ,他動運動による疼痛が消失したことも関節の遊びが拡大したことを支持するものではないかと考える。しかし、実際に関節包・靭帯の伸長度を測ることは困難であり、本考察は推察の域を脱しない。
【まとめ】
本アプローチの利点はスプリント療法と同様「弱く・長時間」の原則により軟部組織を持続的に伸張し,FT装着時の指の圧迫感はあるものの手関節部には疼痛が無いことにある.また,今後の課題としては、牽引量および牽引時間はどの程度が適切であるか?また,対象者や拘縮の程度によってどのように設定するかなど検討する必要があると考える。
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© 2010 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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