抄録
【はじめに】
特定難病であるミトコンドリア脳筋症はそれぞれタイプ別に多彩な臨床症状を示し,急性期での在院日数が予後に大きく影響を与えるとされている.今回てんかん発作により入院し,精査の結果ミトコンドリア脳筋症と診断された50歳代男性を担当する機会を得た.初期診断時では日常生活自立度C2レベルであり,自宅退院は困難かと思われた.しかし入院2週目よりリハ介入開始し,病態特性に合わせコ・メディカル間での包括的アプローチの明確化と介入効果を照合していった結果,J2レベルでの自宅退院が可能となったので以下に報告する.
【症例紹介】
年齢・性別:50歳代・男性 身長:163_cm_ 体重:43_kg_ BMI:16.2 診断名:ミトコンドリア脳筋症 合併症:両側淡蒼球病変・両側誤嚥性肺炎 既往歴:_II_型糖尿病 病前ADL:全自立
JCS:_I_-2,SPO2:91%(O2-3L/分にて96~97%),両側眼瞼下垂・眼球運動障害(+),言語性保続・嚥下障害(+),右側下葉air-entry不良,四肢・体幹筋力低下(上肢・体幹:2~3,下肢:3),易疲労性(+)
【目標設定・方法】
(各期目標と役割の明確化)
初期目標(1~2週目):覚醒・呼吸状態の改善,早期離床,栄養摂取手段の選択〔目標自立度Bレベル〕
PT・OT:呼吸理学療法,筋力維持,早期ADL介入 ST:VF検査含む嚥下能力評価,口腔ケア Ns.:30°ギャッチアップ座位推進
中間目標(2~6週目):ベッド周囲動作の自立,屋内ADL動作の獲得(見守り下)〔目標自立度Aレベル〕
PT:ADL動作における身体の基盤作り OT:屋内ADL動作の獲得 ST:経口摂取確立とマーゲンチューブ抜去による患者ストレスの減少 Ns.:‘できる’から‘する’ADLへの支援
最終目標(6~7週目):屋内ADL動作自立,在宅復帰〔目標自立度Jレベル〕
PT・OT:全身持久力向上,家屋環境の整備,IADLの獲得 ST:食形態・摂取カロリーの調整 Ns.:家族指導
【考察】
入院期間が短ければ,それだけ後遺症は軽いとされる本疾患の特性に対し,回復速度に応じたカンファレンスを頻回に実施し介入目標を修正する事で,適切なチームアプローチと介入効果を最大限発揮できるものと考える.本症例においては,疾患・病態の特性をスタッフ間で共通に認識し,時期に応じた役割を明確化する事が出来た.その結果,早期離床・早期ADL介入の確立により最小限の臥床期間と離床後の活動的な病棟生活が獲得され,高いレベルでの自宅退院が可能になったと考える.
今回在宅復帰までにはおよそ8週を要した.ミトコンドリア脳筋症患者の入院期間に対する先行研究は乏しいのが現状である.しかし,目標を共有した包括的アプローチが症例に対して優位に働いたことは確かであると考える.今後機会があれば在院日数の妥当性についても検証していきたい.