抄録
【はじめに】
広範囲腱板断裂は転倒などの外傷を契機に引き起こされる。過去の報告では、断裂サイズの大きなものほど術後成績は不良とされている。今回、広範囲腱板断裂を呈し腱板機能不全を起こした症例に対して治療時にティルトテーブルを用いた姿勢変化と大結節の軌跡に着目し理学療法を施行したのでここに報告する。今回の発表にあたり、患者様へ十分な説明を行い、許可を頂いた。
【症例紹介】
70歳代、男性。既往歴、家族歴には特記事項なし。
【現病歴】
転倒により受傷。画像所見より左肩腱板断裂(棘上筋、棘下筋停止部にて完全断裂)と診断され、受傷後約2ヶ月後に当院にて左肩腱板縫合術及び肩峰形成術を施行。
【初診時所見】
左肩関節の他動可動域は、肩甲上腕関節にて屈曲、外転ともに左右差なし。自動可動域では屈曲105°、MMTにて棘上筋・棘下筋は1レベル。
【経過・治療】
4週目より臥位にて徒手抵抗や輪ゴムを用いた軽負荷な腱板訓練から開始し、姿勢変化に着目してティルトテーブルを用い、昇降角度の調整を行ないながら腱板訓練を行なった。退院後は外来フォローを行い、終了時の左肩可動域は自動にて屈曲150°、外転120°、MMTは棘上筋・棘下筋が4レベルまで回復がみられ、ADLは全て自立となった。
【考察】
本症例は、広範囲腱板断裂による術後の腱板機能不全が大きな問題となった。一般的に、手術により腱板の構築学的整復は行なわれるが、腱板機能回復という点では術後のリハビリテーションが重要となる。本症例においても、肩峰形成術を行い機能的整復は行なわれた。しかし、棘上筋・棘下筋の収縮不全があり、臥位での訓練時には三角筋などの代償運動はみられなかったが、坐位・立位での無負荷運動時には三角筋による代償が起こり肩峰下インピンジメントを起こしていた。自動挙上困難な原因として、座位・立位の姿勢では腱板のdepressor機能やForce couple機構などの動的な安定化機構が上手く機能せず、インピンジメントを容易に惹起していると考えた。そのため、臥位から座位・立位へと抗重力位へ姿勢変化させるプロセスの中間的な位置付けとしてティルトテーブルを用いた。方法としては、Scapula plane上での運動を意識して、挙上角度の調整を行ないながら徒手にて骨頭を把持し腱板訓練を実施した。また手術にて肩関節後方線維の短縮が認められたため、anterior pathでの挙上よりもpostero-lateral pathでの挙上動作を中心に行いインピンジメントの誘発を予防した。本症例においては、ティルトテーブルを用い腱板訓練時に腱板筋力に見合った負荷調整を行い、大結節の軌跡に着目して治療をおこなったことが腱板機能改善につながったのではないかと考える。