九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 132
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肩関節腱板断裂術後理学療法における一考察
*後藤 友哉
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キーワード: 腱板断裂, 重力下, 自動挙上
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抄録
【はじめに】
 肩関節腱板断裂術後の症例では,臥位において他動運動の可動域が確保できたにも関わらず,重力下である坐位においては自動挙上が困難な場合を多く経験する.今回,これらの問題が体幹に存在すると考え,治療を行うことで良好な結果が得られた一例を経験したので若干の考察を加え報告する.
【説明と同意】
 症例にはその趣旨を十分に説明した上で同意を得た.また,本症例発表は当院の倫理委員会による承認を得た上で実施した.
【症例提示】
 74歳 女性 診断名:右肩腱板断裂の術後現病歴:H22.6頃より肩運動時に疼痛出現.MRI検査結果より腱板断裂を認め手術適応.手術:鏡視下腱板縫合術 既往歴:両変形性膝関節症 側彎症
【経過】
 H22.9.15 手術施行 H22.9.16 術後理学療法開始 H22.10.29 三角巾除去 H22.12.2 外来理学療法開始
【評価】
 ROM:坐位自動挙上130°,臥位他動挙上160° MMT:三角筋3レベル
 疼痛:挙上等の運動時痛が三角筋前・中部線維,上腕二頭筋長頭腱部に出現.
【動作観察】
 上肢挙上に伴い体幹の伸展・右回旋・左側屈が生じ,重心が左後方へ移動する.
【治療】
 胸郭‐脊柱‐骨盤帯のアライメント調整
 腸肋筋,最長筋,多裂筋,半棘筋および腹横筋,腹斜筋に対する神経筋再教育
【結果と考察】
 本症例は他動運動での関節可動域が確保できたにも関わらず,重力下である坐位において,自動運動での全可動域にわたる挙上が困難であった.この要因として,挙上時の坐位姿勢に着目した.本症例は上位胸郭が右に偏位,下位胸郭は逆に左に偏位し,さらに上位胸椎は左側屈・左回旋,腰椎は右側屈・右回旋,骨盤帯が左回旋(右寛骨前傾・左寛骨後傾)していた.この姿勢や動作そのものが挙上を制限する因子になっていると考えた.通常,右上肢を挙上する場合,重心が前右側方へ移動し,脊柱は前屈・左回旋・右側屈する.しかし,本症例は三角筋等の挙上する際に用いる筋の出力が低下していること,また体幹自体に不安定性を有すことで挙上動作に伴い体幹を伸展・右回旋・左側屈させ代償を行っていたものと考えられる.特に,肩甲胸郭関節は胸郭上に浮遊する関節であるため,脊柱や胸郭の影響を強く受ける.且つ,肩甲骨は肩関節における土台の役割を担うため,体幹のアライメント不良に伴う肩甲骨の運動性の変化は時として肩関節の可動域に大きく影響を与える場合がある.本症例においても,これらの影響に伴う胸郭からの運動伝達の不良,ひいては体幹からの影響によって坐位における自動挙上に制限を有したのではないかと考え治療を行った.具体的には運動制御を司る筋群によって体幹に発生する関節モーメントに拮抗する働きをする筋群の出力向上を図っていった.これにより体幹の安定性が向上した結果,坐位の自動挙上が145°,三角筋のMMTが4レベルと若干ではあるが改善が確認できた.
【まとめ】
 肩関節という局所を捉える上で,全体に目を向けることの重要性を再認識した.
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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