抄録
【はじめに】
今回、著明な高度脊柱変形により座位姿勢や呼吸機能に支障をきたしている症例に対して、その改善と自力移動の向上を目的に電動車椅子作製と姿勢の検討を行ったので報告する。本報告については、対象者および保護者へ説明し同意を得ている。
【症例】
11歳、男児。診断名は二分脊椎。現在の身体機能は、Th2-L1 頂椎Th6のレベルでCobb角90°左凸の側彎、脊柱後彎に加え、胸郭は前凸を伴う複雑な変形を認める。関節可動域は股関節屈曲・伸展、膝関節屈曲・伸展に制限を認め、足関節は内反尖足である。筋力はMMTで上肢3~4、腹筋群は2、下肢は0。粗大運動はずり這い移動・寝返り(背臥位・腹臥位→側臥位)可能。
【車椅子座位の課題】
現在の車椅子姿勢は股関節屈曲制限により骨盤後傾位で仙骨座りであるため、背部の腰椎後彎部が支点となりやすく、褥瘡の好発部位となっている。また、腹部は圧迫され呼吸運動が阻害されている。そのため、日中は2時間おきに車椅子かベッド上側臥位にて過ごしており、ベッド上で過ごす時間は他児と共に過ごすことが出来ず、参加の制約を受けている。車椅子自走も可能であるが、実用的ではないため自ら移動することは少ない。そこで、脊柱変形や呼吸機能、褥瘡に考慮した前傾姿勢と通常の車椅子姿勢において、形態面と呼吸機能について比較した。
【評価方法】
形態面は腋窩~坐骨までの長さを測定。呼吸機能については呼吸数、SpO2、1回換気量をそれぞれ5回測定し、平均の値を比較した。
【結果】
座位姿勢における形態面は26.0cm、呼吸機能は、呼吸数:35.0回、SpO2:97.4%、1回換気量:121.0ml。前傾姿勢では形態面が31.0cm、呼吸機能は呼吸数:22.0回、SpO2:98.4%、1回換気量:175.0mlと良好な結果が得られた。
【考察】
今回、高度脊柱変形を呈した症例に対して座位姿勢と呼吸機能、褥瘡に着目して車椅子姿勢の検討を行った。本症例は胸郭の可動性が乏しく腹式優位の呼吸を行っている。車椅子姿勢では腹部が圧迫され、呼吸運動を阻害していると考えられた。前傾姿勢では、体幹伸展に伴い腹部の運動性や胸郭横隔膜運動が改善し、呼吸数の減少・1回換気量の増加を認めた。また、前傾姿勢では脊柱方向への圧縮力の減少と抗重力伸展活動が促される。このことから前傾姿勢での電動車椅子作製は本症例の呼吸状態を安定させ、脊柱の変形予防を可能にすると考えられた。さらに前傾姿勢では背部の褥瘡好発部位に体重負荷はなく褥瘡予防にも効果的である。これらの改善は、機能面だけでなくベッドでの臥床時間を減少させ、より参加の機会を増やすなど生活にも変化を与えると考えられる。本報告では、姿勢の検討に加え、電動車椅子の使用経過や導入後の生活の変化も含め報告する。