抄録
【はじめに】
今回、外反扁平足に対し靴型装具を使用していた症例に、軟性素材を用いた短下肢装具を検討し作製した。その結果、足部のアライメント及び歩容が改善し、転倒の減少がみられたので報告する。尚、今回の報告は両親と本児に説明と同意を得て行った。
【症例紹介】
症例は支援学級に所属する普通小学校3年生の男児(DQ:20)。1歳6ヶ月時、急性脳炎に罹患し、全身の低緊張、失調様の運動障害が出現したため、1歳8ヶ月、当センターにてリハビリテーションを開始した。5歳7ヶ月、数歩の独歩を獲得したが、外反扁平傾向が強かったため靴型装具を作製した。しかし、靴の重さにより下肢の振り出しが一定せず直進が難しい状態で、歩行距離も10m程度と伸びなかった。また歩容は前足部で接地し、左立脚に体幹が左側へ傾いていたため装具の再検討を行った。装具作製を開始した7歳時の機能状況は、足・膝関節を中心に過可動性あり、粗大筋力は3~4であった。裸足で閉脚位はとれず、立位時の足部アライメントは外反扁平を呈し、特に左側では後足部の回内が強かった。
【装具の検討・作製】
本児の機能状況から、(1)軽量である(2)圧迫が加えられる(3)長時間使用が出来る(4)足部アライメントのサポートができる、これらの要素を兼ね備えた装具を作製することとした(1)(2)(3)に対して、全体の素材は弾性のあるネオプレーンを使用した。(4)に対して、クッションで内側縦アーチを支え、足関節の内側はプラスチックの支柱2本で内外反中間位となるように内果と舟状骨・踵骨内側をそれぞれ支えた。外側は螺旋ばねを外果の下方に添って1本つけた。さらに、底背屈中間位となるように足底中足部から足関節前方でクロスして下腿後方で止めるストラップをつけた。
【結果】
靴型装具と違い屋内でも連続使用が可能となった。装着開始して3ヶ月後、歩行中の体幹の傾き・転倒は減り、20m以上の連続した直進歩行が可能となった。現在、裸足での足部のアライメントは改善できていないが、前足部での接地や転倒も見られなくなった。
【考察】
今回、軟性素材を用いた短下肢装具を作製し、歩容・歩行能力に改善が得られた。その理由として靴型装具と比べ、弾性のある素材を使用したことにより圧迫での足部の固有刺激による求心性フィードバックが促進され、静的・動的に足関節が安定したことが挙げられる。また、屋内外の使用が可能となったことで装着時間が延長し、良好なアライメントで運動学習が行えたこと、装具の軽量化によって重さに左右されず振り出しが一定化したことが要因であると考える。加えて、接地時の床反力を足関節周囲以外の股・膝関節に適確に伝え、合理的な体重支持の学習に繋がったと考えられる。今後は本装具の長所と改善点を検討していき、足部アライメント及び歩容の評価や装具の調整を継続していくことで、本児のより活動的で安定した運動が出来るよう支援していきたい。