九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 258
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木工作業に取り組むことで記銘力、活動性の改善が見られた一症例
~人間作業モデルを視点としたアプローチ~
*長嶺 野乃黒木 俊光
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抄録
【はじめに】
 OTとして作業活動を選択する際、対象者にとって価値のある活動を用いることが多い。今回、人間作業モデルを視点とし、リーズニングを行うことにより、作業活動を選択し介入した。結果、若干の活動や記銘力の改善が認められたので、以下に報告する。
【症例紹介】
 50歳代男性。X年低酸素脳症を発症。前向性健忘、記銘力低下を呈し、精神科閉鎖病棟に入院中。発症前職業は、建築家で現場監督。
【初期評価】
 身体機能として明らかな麻痺は認められない。ADLはB.I85/100(日中臥床傾向で促し必要)HDS-R 16/30(見当識、短期記憶で失点)。エコクラフト作業実施時には、依存的で問題解決能力低下あり。OSA-IIより、全てのサブシステムで、価値と有能性において乖離(大事だがするには問題のある状態)が見られ、その中でも意思の項目に最も乖離が認められた。有能性低く、変化を望む項目としては、“好きな活動を行う”“能力を発揮している”が挙げられた。NPI興味チェックリストでは、興味の強い項目として、木工など職業に近い作業が挙げられ、「復職出来なくても、特技を活かし人の役に立ちたい」というデマンドが挙げられていた。これらより、現在好きな活動を行う場所がなく、能力を発揮出来ていないと考えられた。
【治療方針】
 目標は作業における活動性、記銘力向上、有能感の向上と定め、興味の高い木工を提供し、意思に対しアプローチを行った。また、カレンダーに完成の締め切りを設定、進捗状況に合わせ、スケジュール変更を記載し日々の意識を高めた。
【経過と結果】
 作業遂行上の変化として、以前の作業では、前日の作業内容を覚えていない状況だったが、木工では、進捗状況を記憶し、日付など締め切りを意識して作業を進めること可能となり、自ら問題解決を行う場面が増えた。ADLでは、B.Iの点数に変化はないが、日中の臥床時間が減り、精神科OT への参加や、食堂で過ごす時間が増えた。介入1ヵ月後にはHDS-R23/30となり、見当識、短期記憶の改善あり。OSA-IIでも、意思の項目だけでなく、全ての項目で、乖離状態の改善が見られ、変化を望む項目でも有能性が改善した。しかし、環境と遂行の項目においては、まだ乖離が大きい状態が残っている。
【考察】
 今回、人間作業モデルを視点として、問題点やデマンドを深く理解しようと努め、価値のある作業を提供し、意思にアプローチした結果、有能感が向上したことが、作業中の自発的な行動や、活動性向上に繋がったと考えられる。また、締め切りを設定し、仕事に近い環境を作り、絶えず活動に対する意識を高めたことで、見当識への意識が高まり、活動性向上に繋がったのではないかと考えられる。意思の有能性の改善みられたが、環境や遂行の項目で、価値と有能性に乖離みられる為、今後、まずは、環境面へのアプローチを行っていきたい。
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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