九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 039
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記憶障害者に対する自己教示法の有効性の検討
~メモリーノートの意識付け~
*森山 喜一郎宮原 智子高嶋 隆司麻生 裕介梶原 庸平岩田 智子
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抄録

【はじめに】
 記憶障害者が日常生活を送る上で,メモリーノートなどの代償手段が有効となる場合が多いが,その定着には難渋する例も少なくない。今回,頭部外傷後遺症により著明な記憶障害を呈した症例に対し,自己教示法を用いてノートを使用した歩行訓練を実施した。結果,ノートの存在及び参照をすることへの意識付けが可能となり,代償手段として使用しながら歩行することが可能となったので報告する。
【方法】
 対象者は40歳代,男性。頭部外傷受傷後20年以上経過した後,当院外来で週3回の訓練を開始した。Brunnstromステージ右上肢5手指5下肢4~5,移動手段は車椅子で自宅内ADLはほぼ自立であるが,IADLは家族が行っていた。右側の筋緊張調整不良,失調があり見守り~軽介助レベルの杖歩行であった。主訴は自分で歩けるようになりたいであった。数年の逆行性健忘及び前行性健忘が著明で,WAIS-3はVIQ95,PIQ88,FIQ91,RBMTはSPSが2点,SSが0点であった。
 毎回ノートに歩行のコースを患者自身に書かせた後に歩行を実施した。歩行は2通りのコースを設定し,交互に使用した。自己教示法の効果を検証する目的で,シングルケース実験法を用い,自己教示法を用いない訓練(以下,A期とする)と,用いた訓練(以下,B期とする)を10回ずつ実施した(A1期,B1期,A2期,B2期)。A期は,歩行中コースが分からなくなるなど困難が生じたらノートを見るよう促しを行い,B期はそれに加え歩行開始前に“分からなくなったらノートを見る”と患者自身が述べた上で歩行を開始した。効果判定として,歩行コースのうち自らノートを見ながら進めた過程の数をカウントし,ABにおいて比較した。
 本研究に当たり,本人及び家族に事前に同意を得た。
【結果】
 各期の中央値はA1で2.5,B1で4,A2で3.5,B2で5であり,B期において得点が高かった。B1,B2は全てA1の中央値以上であったが,A2は9,10回目に中央値を下回った。A2ではB1の効果が持続したが、後半の4回から点数が低下し始めた。B2では初日より満点となり,3回目以降継続した。ABの差をウィルコクソン符号付順位和検定を用いて検定したところ,B期の方が有意に点数が高かった。
【考察】
 今回“分からなくなったらノートを見る”という自己教示により代償手段を自ら言語化した結果,自発的にノートを確認する行動が見られるようになった。これは,言語化することで歩行前に自らノートを意識付け,ノートの参照及び使用という行動を強化することができたのだと考える。また,本症例は著明な記憶障害があったが,そのような対象者にも自己教示法が有効であることが示唆された。今後は,自宅での活動やスケジュールの管理など,他の具体的活動において同様に自己教示法を用い,ノートの意識付けを汎化させることが必要である。

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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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