九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 040
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座位訓練の導入により筋緊張と意識レベル改善をみとめた一症例
*永石 和也
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抄録
【はじめに】
 一般的に座位訓練を開始する際の意識レベルは、JapanComaScale(以下、JCS)I桁、II桁の一部と言われている。今回重度意識障害を呈した症例に、筋緊張亢進の一要因となっていた背部への圧・刺激を減らすために端座位訓練を実施した。今回、この取り組みにて筋緊張や意識レベルに改善が認められたため、考察を含め報告する。
【症例紹介】
 10代男性。169cm、75kg。交通事故により多発性脳挫傷・脳内出血、外傷性くも膜下出血を受傷。筋緊張亢進により四肢硬直状態。
【評価】
 JCS:III-200。MAS:3。B.I:0点。筋緊張亢進により頚部・体幹・四肢は重度可動域制限を示した。特に頸部は左回旋位、両足関節は尖足位で痙縮を呈した。また、後頭部・背部に圧・刺激が加わると異常姿勢反射が強くみられ、頚部・四肢伸展パターンを著明に認めた。車椅子座位では全身の反り返りにより姿勢が崩れやすく、端座位では脊柱右凸側彎・骨盤後傾位により座圧中心点が一定せず筋緊張を高める傾向にあった。
【介入方法】
 背部への圧・刺激の軽減にむけて端座位訓練を行った。今回は座位の支持性を高めるためにPT・OT同時介入し前方から骨盤支持・修正、後方から上肢帯を支持し、左右対称的な姿勢となるようにした。
【結果】
  JCS:II-20。MAS:1+。端座位時、頚部・上肢帯の筋緊張低下。介入初期にみられた異常姿勢反射は軽減し短時間ではあるが車椅子座位が可能となった。また、呼びかけに対しての開眼や思い出の写真を追視する様子、嗜好品であれば嚥下する等の変化がみられた。
【考察】
 石神らは「トライアルケース」として、重症例(遷延性意識障害や座位不能な重度障害)にも車椅子座位、関節可動域訓練、精神的な刺激を入れる多面的なアプローチの重要性を述べている。今回、一般的には適応外となる重度意識障害患者であったが、端座位訓練の導入により背部への圧・刺激量の軽減や臥位から座位への姿勢変化により固有感覚や前庭感覚入力を図れ、橋・延髄レベルでの姿勢反射の統合を促せたと考える。これらにより、異常姿勢反射や筋緊張など陽性徴候の出現を抑制でき、身体・精神面へストレスの少ない時間を提供することが出来たと考える。また、安定した姿勢アプローチにより骨盤・体幹の運動学習(筋活動)を促通できたことで、空間での安定性が得られ頚部・上肢帯の努力性筋緊張の軽減にも繋がったと考える。これにより、表情が穏やかになる等の変化が見られはじめ、視覚・聴覚など感覚入力を得やすい環境となり意識レベルの改善に働いたと考える。
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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