九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第33回九州理学療法士・作業療法士合同学会
セッションID: 072
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人工膝関節全置換術後完全屈曲を獲得した症例
*後藤 良幸東 幸児石橋 達郎坂本 大和鵜殿 翔太中村 明生
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抄録
【はじめに】
 人工膝関節全置換術(以下TKA)において、これまで術前より関節可動域が低下した症例を経験した。関節可動域の低下を予防するため軟部組織の治癒過程を考慮し術部の癒着防止・柔軟性維持に努めたことで、良好な可動域を得ることができた症例をここに報告する。今回の発表にあたり、患者様へは十分に説明を行い許可を頂いた。
【症例紹介】
 A氏70歳代。60歳代で両膝痛出現し保存療法を行うも改善せず当院受診。X線より左FTA180°、grade4、左膝内反変形著明。左TKAを施行。左膝術中可動域:0°~160°(full flexion) 左膝術前可動域:0°~160°(full flexion) 術前に正座を頻繁に行っていた。
【TKAについて】
 機種はDepuy LCS CR typeを使用。関節展開はmedial parapatella approachにて施行。LCSの設定屈曲可動域は145°であり完全屈曲は困難である。当院では大腿骨コンポーネントを4°前傾、脛骨コンポーネントを10°後傾させることで理論上約160°の可動域を獲得している。LCSの設定伸展可動域は15°であり上記のように設置しても理論上伸展不全はおこらない。
【関節可動域の経過】
術前:160°/14日目:125°/21日目:140°/42日目:160°
【考察】
 本症例は術前は和式生活を送っており、今回も本症例のDemandは和式生活であった。そのため和式生活をより楽にすることを目的に関節可動域に着目した。術後早期より膝関節の深屈曲を目指すと炎症・疼痛を助長する可能性が高いため軟部組織の治癒過程を考慮した治療を提供した。一般的に関節軟部組織は15日前後で癒着するといわれている。そのため軟部組織が増殖期に入る術後3日目よりパテラセッティング・マッサージを行い皮膚・膝蓋上嚢・膝蓋腱部の癒着防止に努めた。その結果術後14日目に左膝関節屈曲125°を痛みなく獲得した。術後15日目より左膝関節の深屈曲を目指した。内側広筋腱と内側広筋下にある前内側関節包との滑走性改善、後内側関節包の柔軟性維持を目的に徒手療法を施行。また、再炎症による癒着を防止するためにアイシングを励行した。その結果21日目に左膝関節屈曲140°を獲得することができた。
【まとめ】
 本症例は術後早期から可能な限り術部の癒着予防、軟部組織柔軟性維持、腫張改善を行った。そのため軟部組織の増殖期が終了する20日までに良好な可動域を獲得できたと考える。そして、42日目には術前と同じ左膝関節屈曲160°を獲得することができた。今後の課題として21日目~42日目までに関節可動域が20°改善した具体的な理由を検討する必要があると考える。
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© 2011 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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