抄録
【はじめに】
人工膝関節全置換術(以下TKA)における術後急性期では,手術による要因や術前機能など様々な因子が,術後の治療展開を阻害するケースを多々経験する.特に術後における疼痛は,治療展開を阻害する大きな要因の一つであると捉えている.そこで今回,薬物療法やポジショニング,筋緊張の緩和などの疼痛コントロールを重点的に行い,自動運動が行いやすい環境作りを第一選択とし,二次的疼痛を惹起させないよう考慮した.次いで他動・自動ROM運動,膝周囲筋機能改善運動を行い,膝関節の機能的可動性が獲得されてから荷重・歩行練習へと発展させるよう,段階的に理学療法を展開した.その結果,術後ROMにおいて改善を認めた為,以下に報告する.
【対象と方法】
対象は,当院で手術を行ったTKA患者17名18膝.疼痛を考慮せず早期よりROM運動,筋機能改善運動,荷重・歩行練習を実施したTKA患者9名10膝(女性9名79±5.4歳)を従来群.疼痛を考慮し,段階的理学療法を実施したTKA患者8名8膝(女性6名,男性2名73±7.8歳)を段階群とし,両群間の術前,術中,退院時での膝屈曲伸展ROMの差を比較・検討した.なお,統計は統計処理ソフトR2.8.1を使用し,2標本t検定,Mann-Whitney検定を行った.
【結果】
従来群の術前ROMは屈曲121.5±15.8°,伸展-14±6.4°.術中ROMは屈曲140.5±6.4°,伸展0°.退院時ROMは屈曲108.5±7.1°,伸展-6±5.2°であった.段階群の術前ROMは屈曲110.6±18.2°,伸展-13.1±8.8°.術中ROMは屈曲125.6±15.2°,伸展0°.退院時ROMは屈曲118.1±11.6°,伸展-1.3±2.3°であった.両群を比較・検討した結果,術前-退院時,術中-退院時における屈曲ROM,術中-退院時における伸展ROMで有意差が認められた(P<0.05).
【考察】
段階群は,従来群と比較し膝屈曲伸展ROMに関して有意に改善を認め,より術中ROMに近い値となった.これは,疼痛を考慮したことにより,術後における防御性筋緊張の抑制が図れ,ROM運動時に術部周囲の過剰な伸張ストレスを軽減することができた為と考える.また,二次的疼痛を抑えることで,積極的な自動膝屈伸運動が可能となり,早期に機能的可動性を獲得できたと考える.今回の結果から,TKA術後急性期における理学療法として,段階的理学療法を展開することで,より術中に近いROMの改善が図れると考える.
【まとめ】
段階的理学療法を展開した結果,ROMの改善が有意に図れた.今後は,段階的理学療法による,歩行能力・歩容への効果について検討したいと考える.