抄録
【目的】
臨床上、慢性腰痛症例において骨盤帯の左右非対称性が頻繁に観察される。骨盤帯の左右非対称性を左右対称に調整するために様々な手技の有効性が報告され、実際その有効性を体感している。しかし、骨盤帯のアライメント修正後、再度骨盤帯の非対称性が生じる。今回、骨盤帯のアライメント調整と同時に、キルケソーラ氏により提唱されている運動単位を最大限に動員させるトレーニング方法(Maximizing Neuromuscular Recruitment:以下MNR)併用して、両脚立位時の重心動揺と左右の片脚立位における重心動揺の変化、さらにMNR後の立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係を検討したので報告する。
【対象と方法】
対象者は、足部、足関節・膝関節に問題のない30名、内訳は男性25名、女性5名の30名。平均年齢26±3.58歳。30名を無作為に10名ずつの3群に分ける。各群に対し、1)骨盤帯の位置の確認(上前腸骨棘/上後腸骨棘/仙骨のアライメント/腰方形筋の圧痛/梨状筋の圧痛)、2)仙腸関節のjoint play test、3)仙腸関節に対する疼痛誘発テスト、4)立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係、5)重心動揺計(Zebris社製、PDM)を用いて両脚安静立位重心と片脚立位の重心動揺の測定、6) 骨盤帯の非対称性に適応させたmanual therapy、7)MNRを後部靭帯系理論を基本に後部斜方向、前部斜方向、外側方向の3群にわけ、Redcordを用いて、MNRを1種類ずつ行う。内容は無作為に実施した。再度同様に検査を行い、MNR前後での比較、検討を行った。研究施行前に全対象者に対して、研究の目的、内容を提示して同意を得た。
【結果】
1)仙骨と寛骨の相対的位置関係:30例中15例の右仙腸関節が仙骨に対し寛骨の前方回旋、30例中13例の左仙腸関節が仙骨に対し寛骨の後方回旋、30例中2例の左仙腸関節に寛骨の前方回旋が認められた。2)両脚安静立位重心:全例ともMNR前に認められた総軌跡長がMNR後、有意(P<0.05)な短縮が認められた。3)寛骨前方回旋側の片脚立位の重心動揺の変化:前部斜方向群において、重心動揺の総軌跡長の有意(P<0.05)な短縮が認められた。外側方向、後部斜方向群において、重心動揺の総軌跡長の有意な短縮は認められなかった。4)寛骨前方回旋側の立脚側の仙骨と寛骨の相対的位置関係:前部斜方向群は、MNR後10例中7例に改善が認められた。外側方向群は、MNR後に10例中3例に改善が認められた。後部斜方向群は、MNR後に10例中4例に改善が認められた。
【考察】
仙腸関節が安定する状態は、仙骨が前傾(nutation)し、仙骨に対し寛骨が後方回旋するときである。今回、仙腸関節における荷重伝達機能に着目し、荷重伝達障害がMNRによって改善するか検討を行なった。荷重伝達障害のある仙腸関節に対し、前部斜方向MNRをすることによって、重心動揺の総軌跡長は有意に減少し、荷重伝達機能の改善も認められた。後部斜方向、外側方向においては、有意な改善は認められなかった。仙腸関節の安定性と正常な荷重伝達を獲得するためには前部斜方向における内転筋のトレーニングが重要であると考えられる。