九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
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訪問リハビリテーションにおける作業療法の取り組み
*萬田 ふき*戸田 博之*金谷 親好*竹ノ内 裕一*久松 憲明
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キーワード: 活動, 参加, 自分史
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p. 141

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抄録

【はじめに】

 訪問リハビリテーション(以下訪リハ)に携わる中で、今回2事例を通して一人一人の生きがいや自己実現のための取り組みを支援する機会を経験できたので以下に報告する。

【事例紹介】

 事例1:80代男性、妻と二人暮らし、要介護1、後縦靭帯骨化症。以前は所有していた遠方の畑へ、娘の送迎援助を受けながら通い、野菜作りをすることが趣味であった。しかし娘が不慮の事故に遭い車の運転が困難になったことをきっかけに、畑での野菜作りも出来なくなった。そこで自宅庭にて小規模な家庭菜園を勧めるが、本人の希望する規模ではないため難色を示し、否定的な発言が聞かれていた。作業療法士(以下OT)は関わりの過程で本人の野菜作りの知識や経験を引き出しながら、より実現可能な規模や方法を一緒に模索することで動機づけを行い、目標設定を段階付けすることで徐々に前向きな発言が聞かれるようになった。そして実際に家庭菜園に取り組むという行動を引き出すことができた。小規模であっても質の高い野菜作りを実現できたことが本人の成功体験となり、新しい野菜の苗を買いに外出する機会なども増えた。この成功体験を経て、次に社会参加を目的とした短時間デイサービスの導入も試みるが、この提案に対しても他者からのお預かりデイサービスという主観的な情報を受け、イメージが良くないという理由から難色を示していた。訪リハ介入中は患者の言動等に注意を払い、本人の心の変化を探り、動機づけや導入のタイミング、支援方法を検討しながら介入した。短時間デイサービスは体験に同行することや、事前に患者の性格やニーズなどを事業所と情報共有することで対応方法を予め統一しておいたことが功を奏して、これまでのイメージを払拭したことで定期利用に繋がった。その後、自宅庭での家庭菜園を楽しみながら「活動」を維持し、短時間デイサービスも更に利用回数の増量に至り、訪リハの回数を減少し、「参加」へ繋げることができた。

 事例2:80代女性、独居、要支援2、甲状腺濾胞癌。訪リハ介入当初はトイレまでの移動や入浴動作、環境設定、主介護者である孫への介助指導等実施していた。近くに住む実の娘とは、同居の可否をめぐり誤解が生じたまま絶縁状態となっており、OTが関わる中で本人が娘に対する自分の思いやこれまでの人生を振り返り、より多く語るようになる。OTは傾聴しながら本人の思いが娘と和解したいことや、これまで苦労しながら頑張ってきたことを家族や他者に認めて欲しいという基本的欲求があることに気づき、「自分史の作成」を提案し導入する。自分史作成の目的はいくつかあり、中でもこの事例においては自分が生きてきた軌跡を残すことで、他者に認めて欲しいという欲求を満たし、家族が客観的視点を持って読み進めることで、これまでと違った母親像を知ることが誤解解消のきっかけになることを目的に導入した。作成途中で病状悪化により入院の運びとなるが、作成過程における本人の思いやOTの関わり、「自分史の作成」という作業の中で患者の心理的変化なども垣間見ることができ、がん患者の終末期リハについて深く考えさせられる事例となった。

【考察】

 訪リハにおけるOTとは、より実践的な日常生活の中で患者自身に具体的なニーズを想起させ、それを現実可能な「活動」や「参加」に繋げていくことがひとつの役割であると考える。今回2事例から、利用者の心の変化を捉え、動機づけのタイミングや考えの整理をすることで、生きがいや自己実現の構築に繋がったと考えられる。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告は、本人・ご家族の同意を得たうえで当院倫理委員会の承認を得た。

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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