九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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下肢関節痛および腰痛を有する地域在住高齢者の運動機能と身体活動量の評価
*高田 聖也*大塚 章太郎*寺師 拓斗*角園 恵*竹内 晃二*鶴留 寿人*榊間 春利
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p. 142

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抄録

【目的】

高齢になると何らかの骨関節疾患を有している場合が多く,特に,自営業を営む農村部在住高齢者の中には要介護状態にならないように,在宅での生活を送りながら近隣の整形外科医院で外来リハビリテーションを行っている者も少なくない。痛みは運動機能低下に関連し,特に下肢関節痛や腰痛を有する高齢者では運動機能の低下や活動量の低下により転倒のリスクが高まり,活動や参加の制限を引き起こすことが考えられる。そこで本研究の目的は,痛みの程度に着目し,地域在住高齢者の運動機能,身体活動量との特性について明らかにすることである。

【方法】

対象は種々の疾患により下肢関節痛および腰痛を有して整形外科医院に通院しているが,ADL の自立している65 歳以上の地域在住高齢者 30 名 ( 男性 : 7 名,女性 :23 名,平均年齢 : 80.0 歳 ) とした。評価項目は疼痛の程度,運動機能,1 週間の日常での身体活動量とした。身体活動量の測定前に感じた痛みの程度を NumericRating Scale(NRS)を用いて評価し,1 ~ 4 点の軽度群(10 名,男性 : 2 名,女性 : 8 名,平均年齢 :78.2 歳),5~6 点の中等度群(10 名,男性 : 3 名,女性 :7 名,平均年齢 : 79.5 歳),7 ~ 10 点の高度群(10 名,男性 : 1 名,女性 : 9 名,平均年齢 : 82.4 歳)に分類した。運 動 機 能 は 開 眼 片 脚 立 位 時 間,Time up and go(TUG) test, 30 秒 椅 子 か ら の 立 ち 上 が りテ スト(30-sec chair stand test: CS-30)を測定した。身体 活 動 量 は 3 次 元 加 速 度 センサ(オムロン社 製,Active style pro HJA-750C) を一週間装着してもらい,歩数,歩行時間,エクササイズ(Ex)量を評価した。Ex 量とは身体活動量を表す単位で,3.0METs 以上の活動強度 × 時間で表される。姿勢の変化を伴わない活動は歩行活動 Ex 量として,姿勢の変化を伴う活動は生活活動 Ex 量として計測される。分析は,軽度群,中等度群,高度群の 3 群における運動機能,身体活動量を比較した。統計学的検定には一元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした。

【結果】

本研究の対象者の全員が膝・股関節痛,腰痛などを重複して訴えていた。運動機能は痛みの程度が強いほど有意に低下しており,開眼片脚立位時間,TUG,CS-30の全項目で,高度群の値は軽度群と比較して有意に低下していた (p< 0.05)。身体活動量は,痛みの程度が強いほど 1 日当たりの歩数や歩行時間は減少していた。1 週間当たりの歩行活動 Ex 量は歩数や歩行時間と同様に痛みの程度が強いほど減少する傾向を示したが,生活活動Ex 量は痛みの程度に関わらず大きく減少しなかった。

【考察】

今回の結果より,痛みの程度は運動機能の低下や日常における身体活動量の低下に大きく関係することが示された。また,歩行活動 Ex 量は痛みの程度が強いほど大きく減少していたが,家事動作の活動量を表す生活活動 Ex量は大きく変化しなかった。これは,疼痛により歩行活動は低下しているが,生活活動動作は痛みが強くても日々行っている高齢者が多いことを示唆している。痛みの程度は運動機能の低下,抑うつなどの心理面の障害に影響を及ぼすだけでなく,日常での歩行活動量の低下を生じる可能性がある。

【まとめ】

ADL はほぼ自立しているが,痛みを有して外来リハを行っている地域在住高齢者は多くみられる。今回,高齢者の痛みの程度は生活活動量の低下より,歩行活動量の低下に大きく関係している可能性が示唆された。高齢者の場合,病状の増悪や転倒などが運動機能低下に関与しており,今後は転倒との関連についても検討していきたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

対象者に本研究の目的および内容について説明し同意を得た上で研究を実施した。また,本研究は鹿児島大学医学部倫理委員会の承認を得て行った。

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