p. 15
【目的】
当院では脳卒中後の上肢痙性麻痺に対し、A型ボツリヌス毒素(以下BTX-A)投与を行っており、その後に外来リハビリを中心に集中的な上肢機能訓練を実施している。過去に、初回投与後の上肢機能改善により、更衣遂行時間が短縮したこと、複数回投与により難易度の高い上肢使用が可能になったことを報告した。今回、長期にわたり3回以上の投与を行っている症例の治療効果について検討したので報告する。
【対象と方法】
対象は2012年10月から2016年3月までにBTX-A投与を3回以上実施した当院外来患者7名(男性5名、女性2名、平均年齢67.1±28.1歳、発症から投与までの平均羅患期間6年6か月±10か月)で、投与回数は7回が1名、5回が3名、4回が1名、3回が2名であった。上肢機能評価としてBTX-A投与前、1週間後、1ヶ月後、4ヶ月後にBrunnstromstage(以下BRS)、ModifiedAshworthScale(以下MAS)、関節可動域(以下ROM)、StrokeImpairmentAssessmentSet(以下SIAS)、WolfMotorFunctionTest(以下WMFT)、FunctionalAbilityScale(以下FAS)、10m歩行、口頭によるADL状況確認を実施し、比較検討した。投与と併せて、外来個別リハビリ、および自主訓練を全期間で継続した。
【結果】
全症例で、2回目投与以降のMAS・ROM・WMFT・FASの評価のいずれかに改善が見られた。7名中6名に、初回から直近の投与までの期間でWMFTの向上がみられた。具体例として症例1では、3回目投与後に肩関節屈曲が最大100°拡大し強い痛みが消失した。症例2では、2回目投与後から対立つまみでのピンチ力向上に伴い袖通しが自立し、3回目投与後にチャックやボタンかけが可能となった。また、連合反応としての麻痺側上肢の屈曲が外見上のコンプレックスとして悩んでいた症例3.4(女性2名)は、3回目投与後から連合反応が消失し、麻痺側上肢を体側に維持できることで悩みが解決した。加えて、麻痺側下肢の振り出しを阻害しなくなったことで「歩くときに腕が伸びやすくなって歩きやすい。」と効果を認識できた。全ての症例で、痛み・固さ・使用しづらさ等の主観的な訴えに基づいた継続投与となっており、投与間隔は6名で延長し、最大1年5か月の間隔を得られたケースもあった。
【考察】
複数回投与後に上肢機能の改善が図れた要因として、対象者の痛みや使用しづらさなどの主観的な訴えに対応し、次回の投与を行うため、不使用期間を作らず、ADL上での使用を維持できたからだと考える。使用しづらさの出現なく経過している場合も、生活動作に近いWMFTのより難しい評価項目を成功したいという意欲に伴う投与となり、機能低下を起こさないままに継続できたからだと考える。このように、ADL上での機能低下を伴う不使用期間がなく、生活上での使用を継続できたことが、投与期間の延長に繋がったと思われる。また、セラピストの主観ではあるが、評価を継続する中で、麻痺側上肢の使用が維持されている時、効果が著しいのは3回目投与後だと感じている。
【まとめ】
BTX-Aの効果を最大限に発揮するためには、対象者の意欲を引き出し、不使用期間を作らせない作業療法・自主訓練の提供・マネジメント的な立場での関わりが重要だと感じている。現在、最長のBTX-A投与継続者は3年半であるが、今後も長期に渡って経過を追っていきたいと考えている。
【倫理的配慮,説明と同意】
尚、本研究の実施にあたり「ヘルシンキ宣言」に沿って、全ての対象者に趣旨及び目的について説明し、同意を得ている。