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【目的】
体性感覚は,静止立位において視覚,前庭覚と比較して寄与する割合が多く,立位バランスにおいて重要である.頸部位置覚は,頸部深層筋の筋紡錘から多く受容する.頸部深層筋群は,持久性に優れており,頸椎の前弯を保持し,頭頸部の安定性に寄与することから,姿勢制御において重要な役割を担っていると考えられる.一方,女性は,頭頸部の安定性が低いことや,視覚の影響が強く男性より姿勢安定性が低いことが報告されているが,女性における頸部筋機能とバランス能力の関連についての報告は少ない.本研究の目的は,健常若年女性を対象に頸部筋機能とバランス能力の関連を検討することを目的とした.
【方法】
対象は健常若年女性12名(20.6±1.1歳)とした.バランス能力は,重心動揺計twingravicoder6100(ANIMA)を用い,閉脚立位で開眼および閉眼時を60秒間測定し,総軌跡長の開眼をEO,閉眼をECとした.頸部関節位置覚(RT)の測定は,頚部右回旋および左回旋を交互に10回行い,対象者の頭頂部に設置したレーザーポインタの前方壁への照射光をデジタルカメラを使用して運動前後に撮影した.運動前後の誤差の解析は,画像解析ソフトImage J (NIH)を用い,20回の平均値を補正式に投入して代表値を算出した.頭頸部屈曲筋持久力(MEf)は,対象者を背臥位とし,頭部の支えを除いた状態での頭頸部中間位保持時間を測定した.頭頸部伸展筋持久力(MEe)は,対象者を腹臥位で頭部に5 kgの重錘を設置し,他はMEfと同様に測定した.中止条件は,前額部にスマートフォンを設置し,傾斜角計測アプリケーションiRodin(University of Aizu)が5度傾いた状態で3秒経過した場合とした.頭頸部屈伸筋持久力比(MEf/e)は,MEf/MEeにて算出した.統計解析は,Free JSTAT version13.0(南江堂)を用いて,EOおよびECを従属変数とし,RT,MEf,MEe,MEf/eを独立変数として,stepwise重回帰分析を行った.有意水準は5%とした.
【結果】
従属変数EOに対する説明変数は,RTが選択され,調整済みR2=0.60(P<0.01),β=0.77であった.一方,ECに対する説明変数は,MEfおよびRTが選択され,調整済みR2=0.59(P<0.05),βMEf=0.34,βRT=0.78であった.重回帰式は,EO=76.3×RT+5.18,EC=-0.30×MEf+77.9×RT+33.8であった.
【考察】
開眼,閉眼の両方の条件下で,総軌跡長の説明因子に頸部位置覚が選択された.頸部は視覚および前庭覚の受容器がある頭部を支える土台であり,視覚の有無にかかわらず,頸部位置覚は重要であると考えられる.一方,閉眼条件での総軌跡長の説明因子は,頸部位置覚と頭頸部屈曲筋持久力が選択された.視覚は,空間定位や奥行き知覚といった役割を担っており,空間における身体の位置を知る上で重要である.閉眼時は,頭部の空間定位の情報が欠落するため,頭部の安定性に寄与する頭頸部屈曲筋が関連因子として選択された可能性がある.
【まとめ】
健常若年女性の姿勢制御は,開眼静止立位では,頸部位置覚が,閉眼静止立位では,頸部位置覚および頸部屈筋持久力が重要である.
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守した.対象者の情報は,匿名で取り扱い,個人情報が特定できないよう処理を行い,収集した個別の情報の閲覧は,本研究者および研究協力者とした.また,すべての対象者に書面にて本研究の目的と内容および同意の撤回が自由に行えることについて説明して同意を得てから調査を行った.