p. 159
【目的】
腰痛は日常生活動作の制限因子の1つであり,老若男女を問わず約50%の人が経験すると報告されている。競技スポーツで生じる物理的負荷は腰痛の危険因子と言われており,腰痛と力学的負荷には極めて強い関係があることがわかっているが,力学的負荷と動作の関係について言及した報告は少ない。そこで,本研究ではDrop Jumpにおける接地方法の相違が腰椎応力特性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
一般健常成人男性10名に30㎝の台上からDrop Jumpを行わせ,光学式3次元自動動作分析装置のカメラ6台で計測し,同時に両下肢足底に作用する地面反力を計測した。着地パターンは①膝関節伸展位,②膝関節屈曲位の2条件とし,得られた身体分析点の3次元座標を用いて,腰椎の角変位,関節力などの力学的評価量を算出し,腰椎に生じる応力を算出した。解析区間は足底接地後から鉛直方向の地面反力が最大値に到達するまでに要した局面とした。
【結果】
着地パターンの2条件に共通して,中期区間および後期区間では椎体上前方に応力が集中していた。応力の最大値は全区間で膝屈曲群の方が膝伸展群と比較し有意に小さかった(p<0.05)。
【考察】
接地中期および後期局面において,応力が集中する部位は椎体上前方であった。このことは,接地時に発生する応力は線維輪が豊富に存在する部位で吸収されていることを示すものである。椎体に生じた外力は後方への強い圧迫力が加わりやすく,後方への椎間板ヘルニアを引き起こす解剖学的要因となりやすいとの報告がある。以上のことから,接地時には腰椎上前方へ応力が集中し,その解剖学的構造から後方へ強い圧迫力が加わることで,疼痛が誘発されやすいことが示唆された。また,接地全局面において,膝関節屈曲位の方が伸展位より応力の最大値が小さかった。接地時における膝関節伸展筋群は,膝関節屈曲角度の増大とともに遠心性収縮を行うことで力学的エネルギーの吸収を行う。したがって接地方法の相違は,腰椎に生じる応力の大きさを変化させ,疼痛を減少させる可能性があることが示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属施設倫理規定に従い被験者には実験に先立って研究目的,実験内容,データの取り扱いなどを説明し,危険や苦痛を感じた際には,自らの意志によって中止できることを伝え,協力の同意と署名を得た(疫25-40)。