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【目的】
当院には脊椎外科があり、多くのOpeを施行している。その中でも腰部脊柱管狭窄症(lumber canal stenosis:以下、LCS)が占める割合は大きい。当院脊椎teamでの先行研究において、LCS患者と健常者の股関節可動域を比較検討し、LCS患者の股関節内旋可動域が健常者に対し大きい結果となり、LCS患者の歩行障害や姿勢変化が股関節可動域に何らかの影響を及ぼしていると報告した。そこで今回、原因の一つとして腰椎の変性が関与しているのではないかと疑い、股関節可動域への影響を本研究の目的とする。
【対象・方法】
対象は当院にてLCSと診断され、内視鏡下椎弓切除術を施行した患者をLCS群とし、神経症状側(以下、患側)と神経症状非有意側(以下、健側)とに分類した。また既往歴に股関節の疾患がなく、関節リウマチ、膝OAの診断がない患者をcontrol群とした。内訳はLCS群が男性19例、女性22例(平均年齢72.3歳)であり、control群は男性21例、女性33例(平均年齢68.5歳)であった。全ての対象者において腰椎の全体像を把握し、臨床で最も頻用される単純X線正面像と側面像から評価を行った。そこから今回は腰椎変性の項目として、①椎間板狭小化の有無②10mm以上の骨棘形成③10°以上の側弯・後弯④5mm以上のすべり⑤圧迫骨折の有無の計5項目に分類し定義づけした。また臨床評価として、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会基準による関節可動域測定法に則り、股関節0°内旋位を同一検者が東大式ゴニオメータを用い1°単位で計測した。検討項目はLCS群とcontrol群それぞれの変性該当項目数ごとの股関節可動域を比較し、それぞれ健側、患側および男女に分け行った。なお、統計学的処理として対応のないt検定とMann-Whithey U testを用い、有意水準は5%とした。
【結果】
統計学的処理の結果から男性では、患側健側ともに変性所見がない患者同士の比較、また腰椎変性項目を1項目有する患者同士の比較において、有意差は認められなかった。しかし、患側内旋可動域で腰椎変性項目を2項目有する患者同士の比較において、LCS群(23.7±3.1)がcontrol群(19.4±3.8)よりも大きく、有意差を認めた(P<0.05)。また3項目、4項目を有する患者においてもLCS群がcontrol群よりも内旋可動域が大きく、有意差を認めた。女性では、患側健側の内旋可動域ともに有意差は認められなかったが、男性同様LCS群がcontrol群よりも内旋可動域が大きい傾向にあった。
【考察】
今回腰椎変性に着目し関連因子を予想し検討を行ったが、腰椎変性項目が多く多因子を複合している患者、つまり腰椎変性が高度になるにしたがい、股関節内旋可動域に影響を及ぼしている事が分かった。また結果から、男性では腰椎変性項目を2項目以上有すると股関節内旋可動域の増大につながる事が示唆された。LCSの病態として、椎間板変性がトリガーとなり、狭小化することで椎間不安定性をきたし、骨棘の形成につながる。さらに椎間関節の変形はすべりや、脊柱変形など構築学的要素からの狭窄を引き起こす。Hip spine syndromの概念から、腰椎の変性に伴う可動性の低下を股関節が代償する運動の繰り返しにより、内旋可動域の増大に繋がったにではないかと推察される。今後は罹病期間などの多因子を含めた病態の解明を行っていくつもりである。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮としてヘルシンキ宣言に沿って計画され、対象者には本研究の目的、測定の内容および方法、安全管理、個人情報保護に関して書面および口頭にて十分な説明を行い、書面にて同意を得た。