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【はじめに】
肩甲骨は肩甲骨周囲筋の影響を強くうける。その反対に、肩甲骨周囲筋の機能障害は肩甲骨の運動に異常をきたす。上腕二頭筋はその1つであるが、先行研究としては、インピンジメント症候群での骨頭に対する作用や、前方不安定性のある患者での活動量の増加、等の報告はあるが肩甲骨のアライメントと関連した報告は少ない。そこで今回、肩甲骨アライメントに拠る上腕二頭筋の作用を検討した。
【方法】
対象は、現在オーバーヘッドスポーツをしていない健常な男女13肩、被験筋は上腕二頭筋である。測定肢位は坐位、肩関節90°屈曲位で、これを開始肢位とした。この開始肢位と、挙上、下制、外転、内転位の、5アライメントでの上腕二頭筋の筋活動の比較と、また、それぞれのアライメントで肩関節外旋と内旋位で筋活動を比較した。測定にはキッセイコムテック社製の筋電計を用い、活動量は最大等尺性収縮時に対する割合として表し、5%の危険率で検定評価した。統計処理は肩甲骨間の比較にはクラスカルワルス検定を、肩関節外旋と内旋の比較にはマンホイットニー検定を用いた。対象者にはヘルシンキ宣言に則り、十分な配慮を行い、本研究の目的と方法、個人情報の保護について説明を行い同意を得た。
【結果】
肩甲骨のアライメントの違いに拠る上腕二頭筋の活動量は、肩甲骨下制と内転位で増加する傾向があった。このときの肩関節の肢位は、外旋位である。また、肩関節外旋と内旋位で比較すると、肩関節外旋が内旋位に比べ有意に高い値を示した。このときの肩甲骨のアライメントは測定開始肢位と下制位である。
【考察】
肩甲骨のアライメントに関する報告としては、F.Struyfらがインピンジメント症候群や肩関節不安定症では、下方回旋方向、内転方向、前傾方向に位置するとしている。上腕二頭筋については、桜井らが肩関節外旋位は上腕骨を関節窩に押さえ込むには最も力学的に適した位置であると述べている。
今回、健常肩では肩甲骨下制と内転位、さらに肩関節外旋位で上腕二頭筋は強く収縮する結果となった。これは肩甲骨が上腕二頭筋の作用により、そのアライメントが変化したと考えられる。上腕二頭筋は、特に長頭腱であるが、結節間溝部で機械的刺激にさらされて障害を受けやすい筋でも有名である。肩甲骨周囲の筋力トレーニング等を実施する際にはその肢位に配慮する筋の1つであると考えることができる。また、肩関節不安定症等の患者では、肩甲骨アライメントは上方回旋の減少と外転の増加が特徴であることが分かっている。肩甲骨内転位は上腕二頭筋に対しては過負荷となる可能性が示唆され、肩甲骨アライメント異常の患者に対しては、上腕二頭筋に留意して治療をすすめるべきであることが考えられた。
【まとめ】
健常な13肩に対し上腕二頭筋を被験筋とし、肩関節90°屈曲位で、肩甲骨アライメントとの関係を調査した。肩甲骨アライメントの違いに拠り上腕二頭筋の作用が変化する結果となった。表面筋電計では上腕二頭筋長頭と短頭の区別が困難であるため、今回は両頭での結果であった。今後は肩関節の角度の違いによる検討も必要であると考える。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究を実施に際し,対象者に研究について十分な説明を行い,同意を得た。 製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。