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【はじめに】
当院では人工膝関節全置換術(TKA)術後2日目より、全荷重許可し歩行練習を行う。歩行状態に応じて歩行補助具を使用し、T字杖歩行自立獲得が目標の一つである。しかし、一定期間でのリハビリテーションにおいてのT字杖歩行自立の可否は患者により異なる。本研究の目的は、TKA術後患者をT字杖歩行自立の可否により分け比較すること、また、T字杖歩行自立に関する因子を検討することである。
【対象と方法】
2014年1月から2014年12月までに片側TKAを行い、評価可能であった59例59膝(男性5例、女性54例)。調査項目は、年齢、性別、BMI、術前日本整形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準(JOA score)とした。測定項目は、術側・非術側の膝伸展筋力・股関節外転筋力、術前・術後膝関節屈曲・伸展可動域、歩行時の疼痛(Numerical Rating Scale)とし、理学療法介入終了時(17.8±2.8 日)に実施した。統計処理は、対象をT字杖歩行自立の可否により可能群44例、困難群15例の2群に分け、比較はカテゴリー変数にはχ2検定を、連続変数については、Shapiro-wilk検定を用いて変数の正規性を確認した後にMann-WhitneyのU検定、または対応の無いt検定を使用した。T字杖歩行自立の可否を従属変数、T字杖歩行自立可能群、不可能群の比較における有意確率が0.20未満の変数を独立変数として、多重ロジスティック回帰分析を行った。また、多重ロジスティック回帰分析で抽出された変数についてROC曲線を使用し、カットオフ値を算出した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
調査項目のうち、年齢において有意差を認めた(p=0.005)。測定項目については、術側股関節外転筋力に有意差を認めた(p=0.028)。多重ロジスティック回帰分析の結果、年齢(p=0.022)、術側股関節外転筋力(p=0.025)が抽出された。ROC分析を行った結果、最も有効な統計学的カットオフ値は年齢78.5歳(感度0.884、特異度0.773、AUC0.742)であった。
【考察】
本研究結果から、TKA術後患者のT字杖歩行自立の可否により分けた2群の年齢、術側股関節外転筋力の2要因に有意差が認められた。可変的要因である術側股関節外転筋力について、股関節外転筋力は主に中殿筋、大殿筋、大腿筋膜張筋であり、歩行時の骨盤安定化、前額面における側方姿勢制御に関わる。股関節外転筋力が不十分なことで、前方への推進力低下、歩行効率の低下となり安定したT字杖使用しての歩行、また、自立困難となる原因と考えられる。不可変的因子である年齢については、これまでも術後機能に影響を及ぼす因子として報告されており同様の結果であった。今回、78.5歳という具体的カットオフが示せたことで、カットオフ値以上の患者の後療法についてはT字杖歩行自立が遅延する可能性を踏まえた理学療法プログラム立案、実施が重要であると考える。
【まとめ】
TKA術後患者のT字杖歩行自立の可否により分けた2群間では、年齢、術側股関節外転筋力に差があり後療法においては、それらを考慮した理学療法プログラム立案、実施が重要であることが示唆された。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には、検査実施についての十分な説明を行い、研究参加の同意を得た。