九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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母指伸展機能再建術に手関節伸筋を用いた症例の筋再教育訓練の経験
*野中 信宏*田崎 和幸*山田 玄太*坂本 竜弥*油井 栄樹*林 寛敏*宮崎 洋一*貝田 英二
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p. 21

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抄録

【目的】

運動機能再建術には術後の機能転換の問題があるため,一般的に損失した筋機能の共動筋を用いて再建される.しかしながら,今回は,共動筋ではない筋を用いて再建することになった症例の筋再教育訓練を経験したので,短期成績と術後2年の結果を報告する.

【症例】

症例は本報告に同意を得た60歳代の男性で右利き,職業は大工である.約2年前に左橈骨骨幹部骨折にて骨接合術を受けた.その約1年後に左母指伸展不能に気付いたが仕事上の都合で放置していた.その約1年後に左母指伸展不能を主訴とし,当院受診し,左長母指伸筋腱(以下EPL)皮下断裂の診断にて再建手術を計画された.

【再建手術とセラピィ経過】

通常ドナーの第一選択であった固有示指伸筋腱(以下EIP)が欠損していたため第二選択の固有小指伸筋腱を用いて腱移行術を行った.しかし,術後2週時,腱縫合部を保護していたスプリントを勝手に外して就寝し,再断裂した.2日後,再断裂部を確認した後,長橈側手根伸筋腱(以下ECRL)を力源として腱移行術を行った.術後翌日から早期運動療法を開始し,運動時以外はスプリントによる外固定を行った.手指自動屈曲運動には手関節背屈筋のECRLも共動筋として働くため,強い手指自動屈曲運動も禁止させた.運動は関節拘縮予防に手関節背屈位で母指の単関節を軽く外転,屈曲方向へ他動運動した.また,腱縫合部周囲の癒着予防目的と母指の伸展方法を覚えさせるために手関節背屈しながら,わずかに動く程度の軽い母指自動伸展運動を行った.術後3週後から母指の自動伸展運動を何度も反復させた.また,示指から小指の自動屈曲時や手関節背屈動作時に共動する母指の伸展動作と分離するようにswitching訓練をすすめた.術後6週時にスプリントを除去したが,強いつまみ動作は控えるように指導した.術後8週で治療は終了し,術後10週で職場復帰した.

【結果】

術後8週時,母指TAMは健側比96%で,手関節,母指CM関節にも拘縮は認めなかった.術後2年時においても良好な関節可動域を維持しており,握力は健側比80%であった.手関節背屈動作を伴わずとも母指自動伸展可能であり,逆に母指を伸展させずとも手関節背屈が可能であり,分離して母指を使いこなせていた.そのため,手関節背屈しながらでも力強いつまみ動作が可能で,釘を把持しての橈屈動作も行うことができ,大工動作に支障ないということであった.

【考察】

EIP の筋活動は母指伸展張力の増加に伴い漸増することが報告されており,母指伸展機能の再建術にEIPを用いることは筋再教育が容易で当然であるといえる.一方,ECRLを用いた報告もあるが,多くは筋伸縮距離の議論で,筋再教育に言及したものはほとんどない.ECRLを用いた臨床的な問題は,母指による特に強いつまみ動作の際に共動筋であるECRLが同時に収縮することにより,対立を保持したい母指が伸展力を持つことである.今回は,安全面ではその動作により腱縫合部の再断裂や縫合不全を発生させないこと,機能面では,母指の運動方法を認識させること,その上で,母指の運動を繰り返し,手関節自動伸展,手指自動屈曲の動作と分離するように訓練することが効果的であったと考えている.年齢や器用さなどと筋再教育との関係性は現在,不明であるが,結果ふまえ印象としては,運動再学習の過程として新しい動きを認識できるようになれば,反復訓練を含めたセラピィにより共動筋でなくとも機能転換できる可能性があると考えた.

【倫理的配慮,説明と同意】

本研究の実施ならびに報告について,対象に十分な説明を行い,同意を得た.なお,開示すべき利益相反関係にある企業等はありません.

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© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
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