九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
会議情報
RA疾患に伴う右側母指Z変形に対して解剖学を考慮した関節可動域訓練の効果について
*山口 亮治
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 222

詳細
抄録

【目的】

関節リウマチに伴う手指の典型的な変形の1つに母指の『ジグザグ』変形があげられる。今回解剖学を考慮した関節可動域訓練を段階的に行い関節可動域の改善が得られたのでここに報告する。

【症例紹介】

50歳代女性、発症から約20年を経過し現在リウマチ症状は安定し、血液検査の異常はみられない。関節リウマチの病期分類において右手指ステージⅡ(中等度)左手指がステージⅢ(高度)。左母指のCM関節は、典型的『ジグザグ』変形をきたし右母指もX―P上で関節変形は認められないが母指球筋及び母指内転筋、背側骨間筋の短縮を認め長母指外転筋、短母指伸筋に腱炎があり関節可動域が制限され緩徐にアライメント異常への移行が予想される症例の右母指に対して解剖学を考慮した筋のストレッチと関節可動域訓練及び家庭での自主訓練を指導した。

【理学療法経過】

右母指の訓練前評価で、X―P上で大菱形筋の軽度の骨萎縮が認められるが顕著な関節変形は認められなかった。関節可動域評価では、他動運動で母指の撓側外転40°、掌側外転40°、MP関節屈曲30°、IP関節屈曲20°と軽度から中等度の可動域制限がありMMT2レベルで母指伸展時手関節撓側面に運動時痛を認めた。視診では基節骨が内転・内旋し母指球筋と第一背側骨間筋の短縮が著明で母指伸展時、腱炎の痛みの為自動運動が困難な状況だった。ナイフやはさみを使用した際も、母指の各関節の屈曲が困難で代償としてMP関節を伸展方向に働かせて母指基節骨底で押して動作を行う傾向にあり変形を進行させるおそれがあった。この患者の関節可動域訓練を行う指標として、南江堂の人体解剖カラーアトラスの手の骨の骨指標及び筋の付着部を体表上に水性ペンで投影し短縮した各筋と腱のストレッチと掌側方向に偏移したCM関節の可動域訓練を週1回30分合計4回と1日1回の家庭での自主訓練を施行した。1回目の治療では、掌側々でCM関節を掌側々から背側々へ圧迫し母指球筋をストレッチする際、母指球筋の起始部にジュクジュクした触感と圧痛を認め母指内転筋の起始部に同様の圧痛を認めた。撓・背側面では、長母指外転筋・短母指伸展筋の腱の触診が困難で、母指を他動で屈曲した際、短母指伸筋に伸張痛及び正中位で触診した際も同様の圧痛を認めた。2回目の治療では、掌側々では母指球筋起部の触診でジュクジュクした触感が消失し圧痛も軽減した。撓・背側面では、短母指伸筋に運動時痛及び圧痛を認め、掌側から背側へ大菱形骨を圧迫した状態で運動を行うと疼痛は軽減したが伸展・外旋を同時に行った際、CM関節の伸展・外旋が不十分だった。3回目の治療では他動での可動域は、掌側外転、MP関節屈曲以外は正常可動域まで改善したがナイフを使う際、母指を伸展・外旋させた状態でIP・MP関節を同時に屈曲するのが困難で、MP関節が過伸展傾向にあった。4回目の治療では、他動運動での可動域は正常域に改善しナイフを使う際、MP関節の過伸展が改善しMMTも3レベルに改善した。

【考察】

4回の治療で母指の他動での関節可動域は改善したがナイフを使用する際、母指を伸展・外旋させた状態でIP・MP関節を屈曲させ柄を押す動作が困難でMP関節が過伸展方向に働く傾向にあった。このことは、腱炎の影響で長母指外転筋・短母指伸筋の腱が短縮し筋力が十分発揮できない為IP・MP関節を同時に屈曲した場合、MP関節の掌側板が過伸張されていることがうかがえる。道具を利用した手指動作の改善の為にも今後もこれらの筋の筋力増強と腱のストレッチが必要と思われる。

【倫理的配慮,説明と同意】

研究実施に際し、対象者に研究についての十分な説明を行い、同意を得た。

著者関連情報
© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top