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【はじめに】
我が国において心大血管疾患は増加傾向にあり,高齢化に伴い脳血管疾患や運動器疾患による重複障害を持つ患者のリハビリテーション(以下:リハ)についても造詣を深めることは重要な課題である.回復期のリハを行うにあたり,脳卒中後遺症を呈し在宅でのADLが自立していた患者が,心大血管疾患を罹患することで介助量が増加しリハ進捗に難渋するケースに遭遇した.今研究は,重複障害患者の在宅復帰を目指すにあたり,ADL低下を来たす特徴を捉えることにより今後のアプローチの一指標となることを目標とした.
【対象】
平成26年4月~平成28年3月までの2年間で,既往に脳卒中後遺症を呈し心大血管疾患に罹患しリハ目的にて転院してきた16名を対象とした.年齢は平均74歳±14.2.男性13名,女性3名.いずれも脳卒中後は在宅でのADLが自立し,Brunnstrom recovery stage(以下Brs,Ⅳ~Ⅵ)を呈している.今回のイベント後も病前と退院時のADL状況に相違が少ない患者が対象.介護度が高く,高度の認知機能低下,研究への同意が得られなかった患者は除外した.
【調査項目と調査方法】
調査項目として基本属性,医学的属性,ADL,リハビリ進捗状況とした.基本属性は年齢,性別,Brs,BMI.医学的属性は,合併症,LVEF,NT-proBNP,Alb,Hb,eGFR.ADLはFIMを使用.リハビリ進捗状況は起立・歩行開始日数とし,病前の移動方法,急性期病院在院日数,回復期病院在院日数を検討した.回復期病院転院時に,退院時より運動FIM得点が25%以上低下していた者をADL低下群(9名),25%未満をADL不変群(7名)とし2群間の各評価項目を比較検討した.また,後方視的研究としデータ収集は,急性期病院の情報と理学療法士が病棟カルテより転記することで行った.
【統計処理】
統計処理は統計ソフトSPSSを用い検定はMann-Whitney検定を行った.また統計処理において客観的に信頼できるサンプル数を満たしていないことから相関の有無を結論づけることは危険と判断し,推論統計学的方法に依拠しないこととした.
【結果】
運動FIM低下率と各指標の因果関係についての結果,年齢,病前移動方法,Brs,Alb,BMI,回復期病院在院日数において因果関係を認めた(各p<0.05).急性期病院在院日数,起立・歩行開始日数,LVEF,NT-proBNP,Hb,eGFRに有意な差は認められなかった.
【考察】
ADL低下群の特徴として,高齢,機能障害により病前は杖・装具を使用,栄養状態が悪いことが挙げられた.両群共に心大血管疾患の合併症により床上安静となる期間がある.病前と同程度の下肢筋活動を確保するまでの期間は廃用が不可避的に生じることが懸念され,上記条件を満たす患者には介助量が増加する傾向にあると考える.対象は医学的属性において有意差を認めず,回復期病院在院日数に与える影響としてADL向上に期間を要していることが示される.近藤らによると脳卒中患者の介助量が多い者は大腿部の筋萎縮が1.4%/日,下腿で1.2%/日進行し,また廃用性筋萎縮の速度も多要因が影響し,65歳以上の低Alb血症の患者では,機能的転帰も低く留まり回復にかかる期間も長期に及ぶと報告している.今回,重複障害患者においても機能的転帰については報告と類似した経緯を辿る傾向にあった.ADLの自立度低下や是正を目的とした早期離床・社会復帰を目指す理学療法が推奨されている中で,廃用症候群を最小限に防止し,栄養状態や心機能に応じて活動量向上を行う為の量的な介入の必要性も示唆された.
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮として,事前に所属施設の倫理委員会の審査を得ると共に研究への同意が得られた者を対象とし,匿名化されたデータの解析を行った.