九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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肩関節周囲炎による肩関節拘縮に対し,Joint Distensionを用い可動域の改善に至った一例について
*浦川 涼人*末次 真也*久保田 正一*黒田 良
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p. 238

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抄録

【はじめに】

肩関節周囲炎患者において,拘縮が起こり関節包の縮小や筋の短縮,関節可動域においても3次元的に制限されることはしばしばある.拘縮の治療に対し,理学療法や薬物療法などが行われるが,今回肩関節拘縮に対して,Joint Distension(関節内圧減圧法,以下JD)を施行し,著名な可動域の改善があった症例を経験したため考察を踏まえ報告する.

【症例紹介】

本症例は肩関節周囲炎を呈した50代の女性,既往歴に糖尿病があり農業をされてある.強い拘縮と疼痛が肩全域にあり可動域制限があった.挙上20°・伸展10°・外転20°・1st内・外旋10°であった.発表にあたり本症例には十分に説明し,同意・承諾を得た.

【経過】

本症例の可動域では棘下筋・上腕二頭筋長頭腱の伸張感の訴え,小円筋の圧痛,関節包の痛みが見られた.筋へのアプローチから始め,靭帯へとアプローチを進めたが効果がなく約2週間後,改善がないため医師とJD施行を決定.本人とご家族に承諾を得て,Dr1名,PT2名,Ns2名にて施行.Drにより針入させ,肩峰下滑液包に100ccの生理食塩水を注入後,PTにより受動術を行った.内旋位での側挙にて鈍い音が聞こえた直後に抵抗感が減少.可動域の改善が見られ更に10ccの生理食塩水と局所麻酔10ccを注入された.麻酔からの覚醒後には自動・他動ともに挙上90°・伸展40°・外転90°・1st内旋45°・外旋35°の著名な改善が見られ,経過も良好であった.JD後は防御性収縮が見られたが減少.痛みは消失し可動域は改善傾向にあるが,挙上で肩前面後面に張り感,側挙外旋では上腕部前面に張り感,1st外旋では肘と肩前面に張り感があると主張され今に至る.

【考察】

拘縮の発生から可動域の制限があったが,挙上20°時の内旋での肩後面の張り感増強から棘下筋の短縮・弛緩肢位の状態でも緊張が強く小円筋に圧痛があることから筋攣縮を考えた.また外転時の外旋では上腕部に張り感増強があり,結節間溝と長頭腱に圧痛があったが,他の可動域での所見は肩全体での張り感と痛みであった.この所見より筋・筋腱移行部に対し治療を行ったが即時効果のみで持続的効果が得られなかった.次に挙上・伸展・外旋制限より,烏口上腕靭帯の短縮を考えてストレッチを行ったが即時効果すら得られなかった.それからJDを施行し著名な可動域の改善が得られたことを踏まえると,肩拘縮に対し最も問題になっていたことは肩甲下滑液包の癒着,Weitbrecht孔の閉塞による関節内圧の上昇と示唆される.治療の効果を得られずDrがJDを施行し改善したことから肩関節周囲炎患者においては関節内圧に関係する癒着や閉塞を視野にいれ治療を行うべきであると再考した.また今回,糖尿病を患っていたため拘縮は起こりやすく,Drとの連携を密に行うことが大切と考える.加えて可動域が改善され異なる所見が露呈したことにより病態の把握・介入が行いやすくなり治療を促すと考える.

【倫理的配慮,説明と同意】

本症例に際し,十分に説明を行ったうえで同意を得た.またヘルシンキ宣言のもと倫理的配慮も十分に行った.

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