九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
Online ISSN : 2423-8899
Print ISSN : 0915-2032
ISSN-L : 0915-2032
会議情報
調理動作の再獲得に向けて
ー自宅での活動に焦点を充てた取り組みー
*髙橋 文
著者情報
キーワード: 活動, 調理, 成功体験
会議録・要旨集 フリー

p. 242

詳細
抄録

【はじめに】

近年、生活期のリハビリテーションにおいては、心身機能の維持・向上だけでなく、生活機能の維持・向上や社会参加を支える支援の必要性が求められている。

今回、脳梗塞の発症により家事動作が困難となった症例に対し、自宅での活動に焦点を充てたリハビリテーションを提供することで、心身機能の回復と調理動作能力の向上を図ることができたので報告する。

【症例紹介】

60代後半の女性。アテローム血栓性脳梗塞による右片麻痺。急性期・回復期での入院加療を経て発症6ヶ月後に自宅へ退院し、リハビリ目的にて当院短時間通所リハビリを週2回利用。発症前は専業主婦として家事全般を担っていた。発症を機に長女が同居となり家事支援を受けている。症例の希望は「家事をしたい」であり、中でも調理に対しての希望が強く聞かれていた。

【理学療法評価】

Brs.t:右上肢Ⅲ、右手指Ⅲ、右下肢Ⅴ。握力:右3kg、左22kg。感覚は正常。退院当初よりADLは自立しているものの時間を要し、病前行っていたIADLは制限されていた。右上肢・手指は依然回復段階であると推測され、また認知機能の低下がないことから、環境設定や道具の工夫が有効であるのではないかと考えた。症例の同意の上で、短期目標に「娘の調理を手伝うこと」、最終目標に「一人で食事の準備をすること」を設定した。

【理学療法プログラム】

右上肢・手指の促通練習や把持力向上のためのボール握り、その他にマシントレーニング、バランス練習、屋外歩行練習を中心に実施。同時に、自宅での自主練習メニューを提供。また、自宅でのADL・IADLの中で積極的に右上肢を使用するよう促した。

【調理動作への介入】

調理動作では、右手での道具操作性や食材等の固定能力低下から、材料の下ごしらえが最も課題であった。特に包丁の操作に困難を生じ、自宅で調理に取り組むこともあったが、うまくできない為消極的であった。成功体験を重ねることで意欲を再獲得できるのではないかと考え、利用開始から2か月間は模擬の食材・包丁を使用し動作練習を行った。その後、片麻痺用調理器具(釘付きまな板)を作成し、実際の食材と包丁を使用した動作練習と、定期的な調理練習を行った。調理練習においては、自宅の環境に近いキッチンを使用し、初回は粗大な動作が中心となる団子作りから開始、徐々に皮むきや包丁の操作が必要な献立を設定した。段階的にアプローチを行うことで可能な動作が増え、自宅では長女の手伝いや単独での簡単な調理を積極的に行うようになった。また、その都度フィードバックを行い皮むきや包丁の操作等課題の修正を図った。

【結果】

当院利用開始5ヶ月後、Brs.t:右上肢Ⅳ、右手指Ⅳ、握力:右10kgとなり右上肢での道具操作性や食材等の固定能力が向上。退院当初より利用していた昼食の配食サービスを中止し、自身で調理を行うようになった。

【考察】

症例は病前、専業主婦として家事全般を担い役割を持って生活していた。しかし、脳梗塞の発症により意欲と動作能力に乖離が生じることで自信を失っていた。目標を明確にし、機能回復と調理動作への介入を同時に且つ段階的に行うことで、徐々に可能な動作が増えていき症例の活動や意欲の向上を獲得することができた。また、宮口らは「認知過程を活性化させる環境における適切な経験が脳の可逆性を高め、その結果として機能回復が得られる」と述べており、活動の中で右上肢を積極的に使用することで麻痺の回復にも繋がったと考える。今後も、症例の生活に即したアプローチを展開し、生活の再構築を図っていきたい。

【倫理的配慮,説明と同意】

本報告は、当院倫理審査委員会の承認を得ている。

著者関連情報
© 2016 九州理学療法士・作業療法士合同学会
前の記事 次の記事
feedback
Top